第24話 スプリガン

 巨大すぎる闇色の精霊ことスプリガン。

 何度も地面を両手の拳で叩く。

 その威力は地震かと思える程の地響きを立てていた。


「無理だあああ、逃げろおおおお」


 リークは超人スキルを逃げる為に使用する。

 その隣を並走するのはカエデちゃんだった。


「あれ、どうやって倒します、リークさん」


「えーと、あれだ。今考えるぞ、スキルを整理してっと、あれだ。さっきのバカ冒険者から奪ったやつ」


「きゅいきゅいきゅいいいいいいい」


「ぎゃあああああああ、きましたああああ」


「助けてくれえええ」


「まったく情けない奴らじゃ」


 カナシーは空に浮遊しながらその光景をただ眺めていた。


「なんだあれ」


「おい、まじかよ」


「でっけえええええ」


「こっちくるぞおお」


「そこの2人、別な方向いけえええ」


「に、にげろおおおおおお」


 リークとカエデちゃんは他の冒険者を巻き込んで逃げ続けた。


「リークさん早く考えてくださいよ、お花畑もそろそろ終わって荒野ですよ」


「ぜいぜい、今考えてんだよちょっとまってくれ」


 リークの脳内でスキル活用方法が画策する。

 スキル軍神を発動し続ける。


 あらゆるデータと配置とモンスターの流れが頭の中にパターンとなって表示されていく。

 

 とりあえずスキル魔力コアを発動、体のあちこちに魔力コアを製作。

 

 次に賢者魔法を発動させる。


 右手と左手から賢者の魔法が発動される。

 最大級の賢者炎魔法、最大級の賢者雷魔法を融合させて、体のあちこちにある魔力コアから力を分けてもらい。


 発動。


 スプリガンはこちらに小さな羽を飛翔させて追いかけてくる。

 その軌道線状に2つの特大の魔法が炸裂する。

 炎が雷が融合し、赤い雷となり、スプリガンに炸裂する。


 爆発の炎と共に、スプリガンの全身は見えなくなる。


「やったか!」


「頼むぞ」


 他の冒険者達が心の底から願うように炎の塊を見ていた。

 だがそこには少し焦げた闇の精霊ことスプリガンがいた。

 致命的なのは羽だけが燃えたくらいだろう。


「きゅいいいいい」


 また恐ろしい鳴き声を上げてこちらに突撃してくる。 

 しかし羽をやられたので飛ぶ事が出来ず、走ってくる。 

 そのスピードは遥かに先程と比べてのろまだった。


 冒険者達はそれがチャンスとばかりに逃げ始める。

 だが2人だけが逃げていなかった。

 リークとカエデちゃんはスプリガンの進行方向に堂々と立っており。


 スキルカルカルカルを発動させる。体が小石程度の軽さになる。

 スキルトンテンカンを発動させる。急なカーブがきくようになるはず。


 リークは右手に黒い猫のランクレイサーを構える。オリハルコンの槍はピンとまっすぐに尖がっており、地面を跳躍する寸前で。


「カエデちゃん、僕がフェイントするから、君はあいつの顔面をぶん殴ってくれ、僕が君をぶん投げる」


「は、はいいいいい」


 それと同時に、リークはカエデちゃんを掴むと、問答無用に遥か彼方にぶん投げた。

 

「きゃああああ、聞いてないですよおおおお」


 空高く舞い上がるカエデちゃんを見送り、リークはスプリガンに向けて走り出す。


 ランクレイサーを構えてスキルボンバーを発動させる。

 ランクレイサーの槍が地面を抉るのと同時に特大の爆発が起きる。

 スプリガンは何事かとこちらを注視して、獲物を見つけたように真っすぐにこちらに突撃してくる。


 リークは再び地面を蹴り上げて跳躍する。

 体は小石程の軽さになっている。

 とてつもなく軽くなったその体にスキル超人が発動していると、とてつもないスピードとなり、角をくねくねと曲がる事も出来る。


 スプリガンの怒りの悲鳴が轟く中で、拳があちこちに飛来する。

 その都度、リークは全ての拳を避け続ける。

 一撃でも食らったら即死は免れないだろう。

 

 右の拳が頬をかすると、左の拳が真横からやってくる。

 それを急カーブで避けると、また急カーブで避け続ける。


「きゃあああああああああ」


 真上から落下してくるカエデちゃん、そのまま、彼女は拳を握りしめて。


「こんのやろおおおおおお」


 怒りの鉄拳を浴びせる。

 スプリガンがいかに巨体でも顔面にあの狼人間の拳をくらえば。


 その時、スプリガンは少しだけ怯み、みるみる内に体が小さくなっていく。

 闇色の光を発しながら、まるで光る虫のようだ。

 みるみる体が小さくなり、それも異常な程小さくなっていき、小さな砂粒くらいの大きさになった。


 スプリガンの羽は潰れているので、奴が動くとしたら、その足でだ。


「見つけて当てる必要はないはず!」


 大きな声でそう叫ぶと、ランクレイサーとアンクレイサーを持ち替えて、思いっきりスキルのスプラッシュを発動させる。 

 スプラッシュとはハンマー級の衝撃波で全てを吹き飛ばすスキル技で。


 地面に向かってそれを解き放つという事は。

 辺り一面モグラたたき状態になるという事だ。


 スプリガンを見つける為、あちこちをスプラッシュで吹き飛ばすのだが。

 ここで間違ってはいけないのは、殺してはいけないという事だ。

 そうするとカナシーの雷が落下する事が間違いない。


 衝撃波だけで、アンクレイサーの斧の刃は当たらないように繰り出す。

 何度も何度も、右手と左手でがっしりとアンクレイサーの斧を掴み。

 木こりのようなモグラ叩きをしていると。


「くうう」


 という可愛らしい声を響かせて、元の大きさに戻ったスプリガンがそこにはいた。


 現在リークの全身は汗まみれとなり、空気を何度も吸っては吐いていた。


 その時だ。捕縛の腕輪が発動して、スプリガンを渦に吸い込んだ。


「ふぅ、疲れたー」


「疲れましたねーリークさん? なんで投げたんですか?」


「え、え」


 カエデちゃんの顔がマジで怒っていた。

 カナシーがにこやかに空からふわふわと落ちてくると。


「レベル3000にしては物足りんな」


「おめーの頭はおかしいんかな」


「カナシーさんハードです」


「さてそんな事もあったが、ちと不味い事になっているようじゃな」


「何がだよ」


「魔族がモンスター狩りならぬ冒険者狩りをしておるのう」


「それはまじか」


「あちらの方角じゃな、魔族は1人だが、恐らくレベルは4000を超えてるな、行くか?」


「カナシーさんお1人でどうぞ」


「私は幽霊だからな、意味はないさ」


「カエデちゃんどこ行くんですか」


 カエデちゃんはひっそりと逃げようとしていた。

 ここは荒野、遥かな荒野の先で1人の魔族が暴れている。

 少年くらいの背丈で、冒険者の死体が無数にあちこちに転がっている。


 少年は高々に笑い声をあげている。

 どうやら満足したようだ。

 だが少年とこちらの目があった瞬間。

 少年はもう目の前にいて。


「つ」


 拳が飛来してきたのであった。

 それを右手でがしっと掴んでしまったリーク。


「……」


 少年はしばらく沈黙を続け、口の端を釣り上げてにんまりとした。


 ちなみにデバフは効きそうにありません、リークは自分の存在が薄れていくのを悲しく感じていた。


「まぁ、デバフにも種類があればいいんじゃがのう、沢山な」


 と言う事をカナシーはある時呟いていた。

 リークはとりあえずイメージしてみた。

 その時デバフの効果を思い出す。

 木々を腐らせたり、物を軽くさせたり、と言う事は足場を!


 リークは少年の足場に咄嗟にデバフを発動させたのであった。


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