Continue――but Two

Continue――but Two

「う……」

「んと……」

 気まずい。

 ひたすらに気まずい凉平と柚紀。

 ひなた時計は、窓側全部にしっかりブラインドまでかけられ、明らかに「お二人でごゆっくりどうぞ」という、露骨な促しをしていた。

 とりあえずは、当分入れてくれそうにないのは確実――

「…………」

「…………」

 ひたすらに、息苦しい空気が続いて、

「……すまね」

 凉平が口を開いた。

「ここずっと、あのことばかり考えてて、ばれねぇようにって……してた」

 そしてもう一度、小さく「ごめんな」と凉平が気恥ずかしそうに呟いた。

 それを柚紀はゆっくりと、静かに飲み込むように、受け止めるように――

「はい、わかりました……じゃあ、私も」

 今度は柚紀が、

「ごめんなさい」

 凉平へ頭を下げる。

 ――やっと言えた言葉。

 お互いを見ながら、安堵の息をつく……二人。


「まだまだこれから、ですね」

 もう元気を取り戻した加奈子が、カウンター越しのマスターだけに、聴こえるように言った。

「……そのようだな」

 自分よりもはるかに年下の加奈子へ、マスター防人は素直に同意した。


 ――そんなひなた時計の店内では、

 ブラインドの隙間から、映画のラブシーンでも見ているような表情で、外の凉平と柚紀を盗み見ているシャオテンと昴(やや興奮気味)

 そしてカウンターの隅っこで、暇そうにごろごろしているシュウジと、すまし顔でコーヒーを片手に本を開いている、誠一郎がいた。


「ねぇ、麻人」

 大型バイクを停止して信号待ちをしている麻人へ、後ろに座る実咲が呼びかけた。

「なんだ?」

「女の子の『やきもち』ってね、露骨に気づいたそぶりをされると怒れるし、気づかれないままだと、それは『凶器』になるのよ」

 なぜ、いきなりそんなことを言い出したのか分からなかったが……とりあえず麻人は背後にいる実咲に「わかった」という返事と共に頷いた。

「次からは気をつけてね」

「…………」

 『次は』というからには、自分はどうやらその地雷を既に……あるいはもう何度か踏んでしまっていたらしい。

 信号が切り替わり、それ以上何も言わない実咲を背中に感じたまま、麻人はきわめて慎重にスロットルをひねってバイクを発進させた。


「――あの野郎、ほんっと好き勝手やるだけやってそのまま行きやがってよ」

「…………」

 この話の発端は、確かに柚紀の「麻人さん、すごい人でしたね」という発言が発端だったのだが――

 柚紀の中で、何ゆえこの『愚痴話』をひたすら我慢して聞き入らなければならないのか……という疑問がムカムカぐつぐつと沸き起こっていた。


 ――それは、ひなた時計の中にまで聞こえていたらしく

 シャオテンは希望通りにならなかったことにがっくりとし

 昴はもう既に両手を合わせて合掌

 準備OKとばかりに両方の耳を塞いだシュウジ

 その隣でまったく変わらす本に目を落としている誠一郎

 もう呆れたとばかりに両手を広げて首を振る加奈子と、大きく大きくため息をついたマスターが……

 まさに異口同音の一塊になっていた――


「だから言っただろう? 清々したって。何でか俺にだけ、いつもいつもあんな酷い扱いや仕打ちばかりしてきて、そんなに俺のことが嫌いなのかよ? って何度思ったことか」

「――あのね」

 凉平の麻人への愚痴を、無理やり途切れさせる柚紀。

「ん?」

「さっき、もうこの話は終わりって言ったけど」

「うん?」

 状況がまったく分かっていない凉平へ――

「やっぱりこれだけはやらせて」

 柚紀が履いているブーツごと、思いっきり脚を振り上げて――

「おるやぁぁぁぁぁっ!」

 凉平の脚(スネ)を全力で蹴り飛ばした。

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