Inherit Will ーインヘリットウィルー

石黒陣也

―Boys Meets Girls―

Re: Start ―― but alone 

「アンタも負けるときがあるんだな」

「まだ任務は終わっていない。コードネームで呼べ、セイバー2」

「はいはい了解。セイバーA(エース)」

 空は暗黒。彼らの周囲はそれよりも暗い黒だった。

 周囲は闇の色とは違った黒。全てを焼き尽くした焦げ跡だらけで、それはヘリの残骸であったり、また数分前までは人だった物の黒い残り跡でもあった。

 全てを焼き払った激戦の跡。

 最初に声をかけた亜麻色の髪の男、セイバー2は、セイバーAへ向いていたが、セイバーAことブレイクは、帽子を被り直しながら遠くの空を見ていた。

 ひときわ大きい、高層ホテルの屋上。その外には眼下で栄える街と、夜空の闇が地平まで延びている。

「土壇場で第二呪文(セカンドスペル)が覚醒した」

「負けた言い訳か」

 低く、真面目さゆえの重たい声に対し、セイバー2は軽口で返した。だが、セイバーAは特に癪に障ったわけでもなかった。

 セイバー2が続ける。

「どんなのに覚醒しだんだ?」

「現状では分からない……。だた、俺の放った能力を全て、消し去った」

「一度全部ぶっ飛ばされてもまだこの余力かよ」

 周囲の黒々とした惨状は、ブレイクが仕上げに行ったものだった。

「手加減したのか?」

 セイバー2がまた問いかける。

「俺は本気だった」

「そうかい」

 短い言葉のやり取り。しかし、簡素に見えて、お互いに感傷の空気が含まれていた。

「あのバカ、マジで逃避行したんだな」

 その言葉に、ブレイクは何も答えない。自分の部下であった男が、命令を無視し、そして全力で挑んだ自分を倒し去っていった。

「追跡は、やっぱ俺達がか?」

「無いだろうな、おそらく、別の部隊(チーム)が追うだろう」

 それを聞いて、セイバー2が安堵と呆れの混じったため息をつく。

「何を安心している」

「だってよ、アイツとはやりにくいしな……実力も含めて色々と、あと頭固いし」

「そういった理由も含めて、俺達が追撃に出ることは無いだろう、ということだ」

 部隊のメンバーであり、セイバー2の相棒であったセイバー1が、任務中に目標(ターゲット)の一人と逃亡した。さらには、第二呪文(セカンドスペル)という上の能力へ覚醒し、同じように第二呪文が備わっているチームリーダーのブレイクを屠って、だ。

 少し前まで、この巨大ホテルビルの上層では社交パーティと称した裏社会(アンダーグラウンド)の大規模取引が行われていた。

 ソーサリーメテオ……その構成部隊の〈セイバー〉と〈アックス〉は、それを機会に裏社会の上級実力者および、その予備軍を一掃した。今はその掃除後。〈アックス〉の方からの連絡が来るまで、任務完了とは言えない。

 〈アックス〉のメンバーの方は今もビル内で、階段とエレベータを爆破して孤立している下の階に、余りが残っていないか確認に回っていた。

「これで、良かったんだよな?」

 いつもヘラヘラと、軽口しか叩かないセイバー2には珍しい、弱気の声。

「知らん」

 ブレイクは、既にすっぱりと切り捨てたといわんばかりの即答だった。

 一拍間を置いて、ブレイクがぽつりと

「俺達を振り切るどころか、張り倒して行った。後はアイツ次第だ」

 相変わらずの冷徹一貫の声。だが、今のブレイクには、いつもの冷徹さを含んだ雰囲気よりも、何か疲れきった気迫の無さが、薄く見て取れた。

「そう、だな……」

 自分の問いに答えた返事ではなかったが、セイバー2はそれで納得する事にした。

「アイツ、本当にバカだよな」

「そういうお前は相当のアホだがな」

 ブレイクのパンチが強めの切り返しに、セイバー2ががくりと肩を落とした。

「うるせーよ」

 ほど無くして、〈アックス〉からの任務完遂の連絡が入り、セイバー1の抜けた部隊名〈セイバー〉は、〈アックス〉と共にこの場から撤収した。

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