ドラゴン
♢ ♦ ♢
十回目の生まれ変わり。
つまり十一回目の生。
その時の母親は、なんと最初の身体の弟の孫だった。僕は彼のひ孫として生まれたわけだ。――ははっ、なんの因果だろうな。血が繋がっているからか、その身体は最初の身体とそっくりだった。
そしてその家庭は、今までの中で一番穏やかで幸せだった。
弟はその後、魔獣の少ない道を探して細々と外の国との交流を始めていた。やがてそれが大きくなり、商売として成功したらしい。家は裕福で食うに困ることなどなく、召使いまでいた。
……その時になっても僕は未だにドラゴンに魔法を習っていた。もはや彼が知りうる全ての魔法は習得していたが、彼を殺すために魔法の向上は欠かせなかった。
……いや、全てではないか。今の時代に
そしていつものように、八つの誕生日に国から使者が来た。僕が次の贄だと伝え、二年後に儀式を執り行うと伝えていった。
……なんと、驚いたことにな。
それまでの家庭では生贄となるのは名誉なことだからと笑って送り出されたものだが、その時の母君は泣いたのだ。
儀式の前日の夜に泣きながら言ったのだ。本当はあなたに死んでほしくなんてない、今からでもこっそり逃げないかと。さすがに国の外に出ればドラゴンも誰も追ってこまい、自分は安全に行ける道を知っている、だからふたりで逃げよう、と。
……嬉しかった。
何度目かの生の時、一度だけ死にたくないと漏らしたことがある。その時の親は困ったように笑って、「私もあなたに死んでほしくないと思っている、けど、これは国中の人の命を守るために必要な、立派なお役目なのよ」と、そんなようなことを言っていた。
――皆が僕の死を望んでいる。産んでくれた、母親さえも。
そう思って絶望したものだ。
だから、母君が逃げようと言ってくれたことが、僕のために泣いてくれたことが、本当に嬉しかった。初めて生きていていいと言われた気がして、だから絶対にドラゴンを殺してまたここに帰ろうと思ったのだ。
そして儀式の当日。
いつものように、ドラゴンは人の姿で皆の前に現れた。
彼が降り立った瞬間、僕は魔法でその首を斬った。
当然、ドラゴンもただでやられはしない。変化を解いて山のような巨体で魔法を使い、僕らは一晩争った。
そうやって周囲を巻き込み吹き飛ばしながら、戦って戦って――僕はどうにか彼に勝った。
やっと死に続ける運命から解放されたのだ。昇る朝日がひどく温かく思えたものだ。
そして彼を倒したらやろうと思っていたことを実行に移した。
僕が
人の身体と魔獣の身体は違うのだ。
魔獣は魔法を使うようにできているが、人の身体はそうではない。人の身体は何かが足りぬ。
だからそれを補うために――僕はドラゴンの血を飲んだ。
彼の強大な魔力が駆け巡り、自分の魔力とひとつになっていくのを感じた……。まるで、そう、本当に新しい自分に生まれ変わるようだった。
けれど身体はその変化に耐えきれず、僕は意識を失った。
そして意識を取り戻した時、僕は西の果ての牢にいた。
なにがなんだかわからなかったが、どうやら僕は一ヶ月近く気を失っていて、その間にドラゴンを殺した罪で捕まったらしい。死刑だそうだ。
竜の国・ドラコで、ドラゴンはいわば神。その時は目覚めたばかりでなんだかぼぅっとしていて、まあ当然かとそれを受け入れた。ドラゴンを殺して、それで満足してしまっていたのだ。
けれどその後、僕の家族は自宅で軟禁状態だと知らされた。
それを聞いて――僕は思い出した。あの居心地のよかった家族のことを。僕のために泣いてくれた母親のことを。
そして思った。
死にたくないと。
また家族に、母君に会いたいと。
なんのためにドラゴンを殺したのかと。
看守に一目でいいから家族に会いたいと伝え、馬鹿を言うなと殴られ、死にたくないと泣いてまた殴られた。
そうこうしているうちに僕の死刑の日取りになった。
久しぶりの太陽は眩しかった。
そしてその下で僕の死にざまを見届けようと集まった人々の、醜い顔よ! 名も知らぬ者もいたが、かつての生で友として遊び、大人になった者もいた。それに、それに――以前生贄として捧げられた時の家族もいた!!
そいつらは顔を真っ赤にして叫ぶのだ! 自分たちの子も生贄になったのにどうしてお前は死んでいない、お前のせいで我らの子の犠牲は無駄になったと!!
……はっ、笑わせる。その子どもだって、僕なのに!!
生贄として捧げられる僕のために、泣いたこともなかったのに!!
あいつらはいつも僕の死ばかりを望んでいる!!!!
そう思うと、もう、憎くて、憎くて……。自分はこんな奴らのために何度もドラゴンに殺されたのかと虚しくなり……気づいたら精霊たちに願っていた。
こいつらを全員焼き尽くせと。
そして自分でも魔法を使った。ドラゴンの魔力はすごかった。
気付いた時には骨も残さず、一面がただの焼け野原になっていた。
…………僕はその真っ黒な道を、母のもとへひたすらに進んだ。
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