この小説はAIが書きました

物部がたり

この小説はAIが書きました

 数年前から世間をにぎわす覆面作家ペンクシー。

 ペンクシー作品は発売数秒で重版を重ね、出る作品すべて映像化。

 老若男女問わず、絶大な人気を誇っていた。

 ペンクシーの文学の特徴は人間の繊細な心理描写とメッセージ性の高さ、そして文章の美しさだった。

 かと思うとコメディ色の強い短編も多く書いており、そのどれも抱腹絶倒に面白い引き出しの多い作家である。


 普段小説を読まない人でも、ペンクシーの作品だけは読むというペンキストも多い。

 評論家たちはこぞってペンクシーの作品をほめたたえた。

「ペンクシーの作品はドストエフスキーにも匹敵する」

「物質的幸福と精神的幸福の追求をこれほど探求した作品を私は知らない」

「これからの文学はペンクシーのペンにより生まれるのだ」

 などなど、例を挙げれば切りがなかった。


 だが、面白いことに評論家たちに絶賛されるペンクシーの正体はAIであった。 

 ペンクシーの中の人は、自身に文才も思想もないことを自覚しており、だが作品を世に発表して上手くいけばちやほやされたいと思っていた。

 そこで考えた末、数年前から驚くべき発展を遂げた小説生成AI「文章書くよくん」という小説生成AIなのにネーミングセンス皆無のサービスを利用し、「書くよくん」で生成した小説をペンクシーというペンネームで発表した。

 

 もちろんAI生成小説であることを隠してである。

 すると中の人が思いもしなかった結果になった。

「書くよくん」で生成した小説が若い読者層にバズり、SNSでみるみる拡散、そして書籍化。

 当然、出版社や編集者との関りができるが、中の人は何かと理由を付けてゴーストライターを隠し通した。


 いつしかその人の心を揺さぶる作品の完成度の高さが、専門家に高く評価され、ついには名誉ある文学賞の候補にすら名前が上がるようになった。

 最初こそ中の人も大喜びだったが、事態が大きくなるにつれて罪悪感とバレたときの恐怖に夜も眠れなくなった。

 巷にはAIが作った音楽や、AIが作った絵、AIが作った論文などが受け入れられつつあるが、小説となるとまだ土台ができていなかった。

 いや、そんな問題ではなくAIが生成したことを隠して利益を得ていたのだから何らかの罪に問われるのは間違いなかった。


 中の人は途方に暮れた。

 犯罪を犯しても自首すれば罪が軽くなるという。

 中の人は編集者に真実を打ち明けることにした。

「先生どうしました。新作はできましたか」

「あ、あの、じ、実は……。小説を書いていたのは私じゃないんです……。書いていたのは『文章書くよくん』だったんです……」

「なんだ、そんなことですか」

 編集者の態度に中の人はあっけにとられた。


「そんなの、最近の作家はみんな使っていますよ。ほら、あの大人気作家のあの人とか、あの人ととか、あの人も使っているんですから」

「え……でも、それっていいんですか……?」

「文章なんて誰が書いたって一緒でしょ。みんな何かから影響を受けていて創作しているんですから、オリジナルの作品なんてありゃしませんよ。大事なのは名前です。ペンクシーの名前が大事なんですよ」

「そ、そうですよね」


  *             *


 それから数年後、「文章書くよくん」は名誉ある文学賞を受賞した。

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