第11話 ちゅーるな世界

 採用担当者は普通の常識的な人に見えた。

 面接前、採用担当者と集められた学生たちはとても活発に話をし、とても盛り上がっていた。

 そこにいた誰もが、この会社に入りたいと思っていただろう。

 私たちは役員面接の部屋に通され、横一列に並べられた椅子に招かれる。

 どのくらい待っただろうか、約束された時間から不思議な間があった。


「社長がいらっしゃいました!」

 ややひきつった顔でその場にいた採用担当者より若い社員が飛び込んできた。

 採用担当者は突然、なにか異界の電波を受信したかのように直立し、扉が開くと同時にほぼ垂直に体を折って礼をする。

 神社の宮司のようにきれいな礼だった。

 入ってきたのは女性だった。

 小柄でずんぐりとしている。

 紺一色のスーツの男性社員の中で、コタツから抜け出したかのような毛玉だらけのよれっとした赤いセーターをきて、白い靴下をはき、便所スリッパのようなボロの突っ掛けを引っ掛けていた。

 どんな問答があったのか覚えていない。

 状況がまったく理解できなかったのだ。

 私は、椅子に座ったそのおばちゃんの大股の奥の、ご披露されている内もも映像しか残っていない。


 予想どおりその会社は落ちた。

 今でもその会社はあって、立派な会社だ。

 結構あるんだなあ。こういう会社。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パッチワーク・ライフ 錦魚葉椿 @BEL13542

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ