【第二部スタート】炎上してるVtuberを擁護したら、クラス1の美少女に告白された件

わたり

第一部

第1話

「うわぁ、また炎上してる……」


『【悲報】Vtuber夜芽よるめアコ、また炎上。「嫌いなら見ないでよ、リスナーが配信者選ぶ権利があるように、配信者にもリスナーを選ぶ権利がある」』


 SNSから流れてきた記事にまたか、とため息を吐きたくなる。


 夜芽アコ。色んな意味で人気のVtuberで、僕も結構見ている。というかファンである。


 ガワの絵、もといアバターはとてもかわいい。ピンク色のふわふわロングにゴスロリ。

 声もアニメ声だけど、そこはかとなく闇を感じる。

 総合的に言うと、重そうな女感があってナイスだね。という感想なのだが……このVtuber、そんじょそこらのVtuberとは違う。


 尋常じゃないくらい炎上するのだ。


 何故そうなったかと言うと……


 例その1 コメント対応

:なんで鼻にものが詰まったような喋り方してるんですか?


『え、意味わかんないんだけど。普通なんだけど。え? なに? 荒らし? 荒らしなの? えっ荒らして楽しい? というかそれで荒らしてるつもりなの? 鼻に? ものが? 詰まった喋り方? そんなコメント書くあなたは脳みそにものが詰まった喋り方出来てるの? 答えてよ、答えろよオイ』


:アコちゃん落ち着いて


『落ち着いてるけど? めっちゃ落ち着いてるからね?? ……もういい今日はコメントつまんないから辞めるね。はぁ……』


 例その2 コメント対応2(ゲーム配信)

:今のは引く所でしたね


『は? 結果論乙。そんなのやってる私にしかわかんないんだけど。なんなの、マウント取りたいの? ならあなたは私より強いんだよね。なら一緒にゲームやろうよ、あなたのランク見せてよ、早くしろよ』


:アコちゃん落ち着いて


『落ち着いてるけど? なに、そんなに私ゲーム下手? もういい二度とやんないよこんなクソゲー。皆は精々この結果論クソゲー楽しんでくださいね』


 例その3 他Vtuberとのコラボ配信

『今日はなんと! 天谷夢華さんとのコラボ配信です! いやぁ、よろしくお願いします夢華さん!』

『初めましてアコちゃん! ……噂は色々聞いてるよ!』


:噂()

:すげぇオブラートに包んでくれてる


『いやぁ、いつの間にか有名になっちゃいましたね……と、実は私も夢華さんの噂をやみん(アコのリスナーの総称)から聞いてるんですよ! なので今回はこのコラボ配信で色々聞いてみたいなと!』

『えー? 噂なんてあったかなぁ?』


:あ

:まずい

:おい


『では早速なんですが、夢華さんの彼氏が、同期の枕野羊太まくらのようたさんって噂ありますけど本当ですか?』

『……アコちゃん??』


:アコちゃん落ち着いて


『あ、後! 前に夢華さんの配信で聞こえた男の人の声、もしかしてお兄さんじゃなくて羊太さ────』

『アコちゃん!?』

『あの女の口と放送を止めろぉ!!』



 例その4 謝罪配信

『この度は天谷夢華さんとのコラボ配信で失礼な事をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。

 ただ、私はやみんの期待に答えたいだけだったんです。その結果こんな事になってはしまいましたが、やみんの皆、そこだけは認めて欲しい』


:それ俺らのせいにしてね?


『えっ、だってやみんの皆が聞けって言ったんだよ! コメントで! だからじゃん!! それにさぁ! 配信で男の声が入ったり手が映ったら皆兄とか弟だって言うじゃん!! 真実を知りたかったの!! 私、う、うう……ずずっ……皆の期待に答えたかったの!! そ、それなのに……う、うぅ……ずるっ……ひっく……ずずっ……ずるっ……』


:本当に聞く奴が居るかバカ

:泣き声が汚い

:うどん啜っとんちゃうぞ

:アコちゃん落ち着いてください


『も゛う゛い゛い゛!! わ゛た゛し゛は゛い゛し゛ん゛や゛め゛る゛!!!』

 その後、SNSにさよなら世界だのリストカットを仄めかすような投稿をしたが、一週間後何事もなかったかのように配信を再開した。



 ……と、色々とぶっ飛んでるからである。

 最初のコメント対応に関しては擁護できるし実際擁護してた。

 が、その後のアレそれは擁護する余地がない。


 夜芽アコ。地雷を超えた核爆弾であり、インターネットを使ってはいけないタイプの人だ。


「けど見ちゃうんだよなぁ」


 本人があまりにもアレで荒れすぎて、もはや信者もアンチもボロクソにしか書いていない。

 が、毎回毎回やらかしが過ぎるのである意味でカルト的な人気がある。


『何をしでかすのか』『どう燃えるのか』『なにで爆発するのか』


 ある意味では信者もアンチも放送を楽しんでる珍しいVtuberだ。そして僕もそんな夜芽アコに惹かれて見てしまっている信者の一人である。

 さて今回は一体何をやらかしたんだと思い、記事に目を通す。

 要約すると、こうだ。


『スパチャ解禁されました! ついに! やっと! これもやみんの皆のおかげだよ! ありがとねぇー!』


:おめ

:やるやん

:誰も祝いのスパチャ投げねぇの草


『いやね、スパチャは気持ちだからね。そういう書き方はダメだよ』


:今日は優しい

:金が目的か

:今スパチャ待ってます?


『は? 別に待ってないけど。あのさ、なんでそういう事しか書けないの? 私の事が嫌いなの? なら見なきゃいいじゃん! そんなこと書きにくんな! 嫌いなら見ないでよ、リスナーが配信者選ぶ権利があるように、配信者にもリスナーを選ぶ権利がある』


:www

:ブチギレやん


『もう配信切る!! 死ねっ!!』


 ……いつも通りである。

 これが普通のVtuberなら、お祝いコメとスパチャで埋まっただろうけど、夜芽アコだからな……

 しかも調べたらマジで誰もスパチャを投げてない事実に少しばかり目頭が熱くなる。

 仕方ないけど、ちょっと可哀想だな……


 ピコンとスマホの通知が鳴る。

 夜芽アコの配信が始まったのでその通知だ。


「タイトルは『私を全肯定してくれる人が欲しい』……SNSで呟いたら「どしたん? 話聞こか?」って出会い厨が群がって来そうなタイトルだ……」


 タイトルでキツい。けど、興味本位で配信を開く。

 そこではいつも通り夜芽アコが泣きながら話していた。


『だってファンもアンチも皆私の事をおもちゃにするじゃん! ヤダ! ヤダヤダ! 全肯定してくれるかれぴっぴが欲しい!! 慰められたい!! 頭ヨシヨシしてくれてお前は悪くないって言ってもらいたい! 依存したい!! 抱きしめられたい!! 誰かの特別になりたい!!』


:甘えんな

:9割お前が悪い

:頭すっぱたかれろ


「いつも通りすぎる」


 開幕早々アクセル全開で画面内でプルプル震えてる夜芽アコを見てそんな感想を漏らしながら、ふと考える。


 普段ほぼ擁護される事がないのだから、たまには擁護してもいいのではないかと。

 見た所、まだ誰もスパチャ送っていない……なんだか、ちょっとだけかわいそうに思える。


「……よし」


 メンヘラみたいな事を言っているので、その手の人が喜びそうなコメントを考える……スパチャの額はまぁ、240円でいいか。丁度ソシャゲに課金した時の余りで残ってるし。


 ……いざそういう文面を考えるとなると難しい。けれど折角書くんだからいっちょぶちかましてやるかと思って僕の知識の中のメンヘラ守護まもる力を総動員し、二分で書いた力作を240円のスパチャと共に送り付ける。


:スパチャ解禁おめでとう。アコが頑張ってる事、俺は知ってるよ。君の笑顔に俺は元気を貰っている。

 あまりお金は投げれないけれど、少しばかりのお祝いを送ります。

 どうか世間の目を気にしないで欲しい。俺はありのままの君に一目惚れをしたんだ。だから、アコは俺が守護まもる……


「……うわぁ」


 あまりの力作に書いた僕も気分が悪くなる。コメント欄も


:うわぁ……

:キモイ

:たかが240円で騎士様気取りなの草

:俺がwwww守護まもるwwww


 案の定、辛辣なコメントが書き込まれ、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきたのでそのまま配信を閉じて布団に潜り込む。


 本人はどんな反応したんだろ……等と考えるが、見返す気もせず、記憶から消そうとしていたらそのまま眠りについたのだった。








「って事があったんだ昨日」


「引くわ」


「辛辣」


 翌日、学校の教室で友人である橘康太に昨日のスパチャについて話したらガチの顔でそんな事を言われた。屈辱だ。


「つーかお前、本当に好きだなそういう……こう、なんか炎上してる女」


「失礼な。僕はこう、ただ興味本位でだね」


「せめてもっとさぁ、まともな物でも見ようぜ。ほら、最近だと天谷夢華とかだっけ?」


「あの子、妹と声が似てるからちょっと……」


「微妙に見たくなくなるやつだなー……んじゃあ、もうちょいリアルの女に興味持とうぜ、ほら、見てみろよ」


 康太に指さした方を見ると、たった今教室に入ってきた美少女が居た。


 穂澄ほずみ心恵このえ

 僕らのクラスメイトであり学年一の美少女。

 けれども、常に人と壁を作っており近寄りがたく、誰とも喋っていないし話しかける人も居ない。


 孤高。という言葉が凄く似合う人だな。なんて思う。


「お前もさ、そのアコとか言うのを守護るよりリアルの女を推せよ。見ろよ穂澄を。目の保養だ」


「うーん、アコちゃんかな。だってあのめんどそうな感じ可愛いし」


「理解出来ねぇ……」


 やはり僕とこいつは相容れないな──なんて考えた所で、康太が少しばかりマジな顔で言ってくる。


「なぁ、あんまりめんどい女推すのはやめとけよ。……マジで痛い目見るぞ」


「ははっ、そんな、リアルでそんな目を見るわけないよ」


 ──この時の僕は気づかなかった。こちらを凝視する女の姿と


「…………」


 全力で、地雷を踏んでしまった事を──

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