第6.5話 お弁当(茜アフター)


「……よかった。全部食べてくれた。えへへ」


 家に帰り、リビングで1人弁当箱を洗いながら昼休みのことを思い出す。

 一人でニヤニヤしながら洗い物をしている私は側から見たら絶対キモい。


 だけど、なんというか、お弁当が空なのってこんなに嬉しいものなのね。


 正直、初めて作った弁当は全然上手く作れなかった。


 唐揚げは焦げがあって、タコさんウィンナーも足がもげてたし、卵焼きでさえまともに作れない。他のおかずはもはや弁当に入れられないくらいの出来だったので冷凍食品で穴埋めをする始末。

 

 そんな出来前だったから教室で見せるのが恥ずかしくて、誰にも見られないように場所を確保して食べてもらうことにした。

 

 私の作った弁当を見ていつきがどんな反応をするのかはわかっていた。

 でも頑張って作ったから、見て欲しかった。食べて欲しかった。


 実際、私の弁当を見た時のいつきの反応は予想通りで、いたたまれなくなってお姉ちゃんが作った弁当を渡そうとしたけどあいつは私の弁当を食べてくれた。


「無理しなくていいのに」なんて自分で言ったくせに本当はすごく嬉しくて。でもまずいっていう言葉が聞くのが怖かった。


 でもそんな不安を吹き飛ばすかのようにいつきは私が作った唐揚げを美味しいって言ってくれた。


 その瞬間、夜頑張って仕込みしたことや頑張って朝早く起きて悪戦苦闘しながら揚げたことを思い出して、それが報われたように感じて嬉しかった。


 もっと上手くなれば、ちゃんと喜んでもらえるのかな? そんなことを考える。


「ただいまー」


 洗い物が終わったと同時にお姉ちゃんが帰ってきた。


「お姉ちゃんおかえり」


「お! お弁当……どうだった?」


「う、うん……なんとか完食してもらえた」



 そう言った瞬間、お姉ちゃんはほっとした表情で胸を撫で下ろした。

 お姉ちゃんもつきっきりで手伝ってくれてたから、気が気でなかったのかな。


「そっか、よかったよかった」


「ありがとね。お姉ちゃんがみてくれてなかったらもっとひどいことになってたかも」


「うんうん。最初弁当の作り方教えてって言われた時はびっくりしたけど……そっかぁ〜あかねがねぇ〜」


 ニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「な、なによ」


「別に〜? いつきくんなんて言ってた?」


「えっと、唐揚げが美味しいって言ってた。あ、あとタコさんウィンナーを見てテンション上がってたかな」


 タコさんウィンナーを食べる時のテンションが明らかに違ったもん。めっちゃウキウキしてたし。


「あ、やっぱり?」


 お姉ちゃんは予想が当たったと言わんばかりの顔をしながらくすくすと笑った。

 タコさんウィンナーはお姉ちゃんの案だった。私は子供っぽいから受けないんじゃないかって思っていたんだけど。結果的には大好評だった。


 ……タコさんの足が千切れてたけど。



「そっか、そっか。いつきくん、そういう子供っぽいところも変わってないんだ」


 どこか楽しそうに話すお姉ちゃん。

 その表情に何か……私にとってはよろしくないものを感じ取ってしまった。


「……なんか、いつきのこと意外とよく見てたんだね」


「えー? そんなことないよ?」


「……そういえばお姉ちゃん、告白される時いつも小学校の時の初恋が忘れられなくてとか言って断ってるよね?」


「それは……そうだけど。まぁ、あくまで断るための口実だよ」


「そういえば、小学生の頃……お母さんと喧嘩していつきとー」


「あ、もうこんな時間か! お風呂洗場洗わなくっちゃ!」


「お姉ちゃん!?」








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