第7話 幼馴染みの友達


 朝、登校した俺の前にある問題が降りかかっていた。



「すぅ……すぅ」


「………………」



 目の前に机に突っ伏して謎の美少女が爆睡しているのである。


 うん。まぁ、学校で寝るのはどうかと思うがまだ授業始まってないし。朝のHR前の時間どう過ごすのかは自由だからいいと思うけど。

 


 ただ、そこ……俺の席なんだよな。


 ていうかこの子だれ? こんな娘クラスに居たっけ? 

 

 この高校にきて半月が過ぎたが全く見覚えがない。

 

 こんな状況からかクラス中の視線がこちらに集まっていて何人かはヒソヒソと話している。


 うおお……クラスの視線が痛い。

 

 どうする? 起こすか? いやでも……どう起こしたらいいんだ? 下手したら「きゃッセクハラやめてください!」とか言われないだろうか?


 くそ、なんでこんな時に限って茜はいないんだよ。あ〜頼むよ〜茜早くきてくれ〜


 普段なら絶対に思わないことを思っていると



「おはよー」



 あかねが教室に入って来た。その瞬間、クラスの視線が彼女に集まり空気が変わる。


 そんな茜が今は救世主に見えた。



「新条、おはよう!」



 俺は誰よりも早く、茜の元に駆けつける。



「な、何よいきなり。あんたから話かけてくるなんて……」



 そんな俺の行動に茜は驚きながら満更でもない様子だ。なんならちょっと嬉しそうだった。



「いや、お前の顔を1秒でも早く見たくって……」 



 こんなことを心から言えるなんて、夢にも思わなかったな。

 多分、今後二度と言うことはないだろうけど。



「んな!! な、なによ。いきなり……も、もうっ」



 いや、めっちゃ嬉しそうですやん。

 やっぱり、こいつちょろくなってないか? 将来が少し心配になってくるぞ。いや今はむしろ好都合だけど。



「いきなりで悪いんだが、俺の席で爆睡してる子が居るんだよ。助けてくれ」


「し、しょうがないわね……」



 よし!



「あれ? なんだ双葉じゃない……おーい双葉、起きなさい」



 茜はどこか手慣れた様子で美少女を起こす。



「んん?……ふぁ〜」


 

 あくびをしながら双葉という女の子は起き、ぐーと背を伸ばした。

 長い髪、眠たそうな目。制服パーカーに黒タイツ。そして存在感のある巨乳。



「あ、あかねじゃん。おは」


「おはよ。双葉、今日はちゃんと来たのね。えらいえらい」



 満足げに頷くあかねとは対照的に少女は少しげんなりした表情をした。

 そこには険悪な雰囲気はなく、慣れ親しんだ仲にしか生まれない空気感があった。



「だって絶対今日は来いって言ってたし……来なかったら絶対家凸して来てたでしょ」


「わかってるじゃない。あとそこはこいつの席。あんたの席は右隣」


「え、ほんと? あー……」



 女の子は俺の顔を見てむむっと考えこむ。

 あ、そうか。転校生の俺である俺の名前がわからないのか。この様子だと俺が転校生ということ自体把握してなさそうだ。



「最近この学校に転校してきた佐藤一樹だ。よろしく」


「あ、うん。知ってるよ。あかねの幼馴染みなんだよね? 茜のこと大大大好きな」



 ……は?


 チラとあかねを見ると引き攣った顔をそらされた。あとで聞かない事ができてしまったようだ。



「そ、それより!! まだ紹介してなかったわね! この子は中野双葉。私の友達」


 友達と言われた瞬間、中野の表情が少し強張った気がした。



「どうも、茜の友達されてもらってます。中野双葉でーす。普段は引きこもりしてまーすなのでレアキャラでーす」



 中野はいえーいとおちゃらけながら自己紹介をしてくる。

 ……さっきのは気のせいだったか?



「あ、ごめんごめん。すぐ退くよ。最近学校来てなかったから自分の席を勘違いしちゃってた。うーん。ちゃんと学校は行かなきゃだめだなぁー」


「そう思うなら毎日来なさいよね」


「は〜い」



 あかねの言葉に全く心のこもっていない返事をしながら中野は隣の席に座って再び眠りについた。


 なんと言うか、どこか飄々とした子だな。

 少し気になって様子を観察してみる。授業が始まるが、中野は起きる気配はない。その後、昼休みまでずっと中野の様子を見ていたが彼女はずっと爆睡していた。


 え? いや寝過ぎだろ。ワンチャン死んでるんじゃね?

 

 あまりの微動だのしなさにある意味心配になる。

 なんだが、学校には授業を受けに来ているのではなく寝に来ているみたいだ。

 

 中野双葉……どこかで……


 


「双葉、お昼よ」



 昼休み、茜は中野の体を揺らしながら起こす。



「ん〜? もうお昼? ふっ……一瞬だったね」



 いや、そりゃずっと寝てたらそうなるわな。



「今日はいつにも増して眠そうね」


「んーきのうは遅くまで漫画読んでたから寝不足なんだよぉ」


「ふぁあ〜……」と大きなあくびをする。


「ほんとはすぐやめるつもりだったけど……読んでいくうちにキリがいい所まで読みたくなっちゃってついつい」



 ああ、なんかわかる気がする。



「ふぅん? 今日も購買寄るんでしょ?」



 茜の言葉に中野は頷いた。

 どうやら今日は中野と二人で昼ご飯を食べるようだ。



「あかねー今日は久しぶりに私達と一緒に食べない?」



 クラスの茜の友達グループが誘ってきた。最近は俺と茜が一緒に食べるのが分かりきっていたからか誘いに来なかったのに。



「あ、ごめんね。今日は双葉達と食べることに決まってるのよ」


「……中野さんと」


「………………」



 中野と茜の友達グループ。少しピリついた空気になった。



「まぁ、いいんじゃない〜さとっちもいることだし、きっと大丈夫だよ〜」


「……そうだね。うん。佐藤くん! あかねのこと任せたよ!」


「あ、あぁ……」



 何を任せれたんだろう。茜の友達はそれ以上は何も言わずこちらに手を振りながら離れていったが、クラス中からあまり良くない視線を向けられている。


 俺と茜じゃなくて、中野に。


 やはり、今日のクラスの様子は少しおかしい。

 


「さ、いきましょうか。いつき! ほらあんたも」 


「お、おう」



 こうして俺と茜と中野は3人で昼ご飯を食べることになった。






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