傍若無人な幼馴染みと再会したら才色兼美な美少女になっていた件〜きっと俺のことなんか忘れてるだろうし、振り回されたくないので距離を置きたいのになぜかめちゃくちゃ絡まれるんですけど!?〜

社畜豚

第1話 傍若無人な幼馴染み





 俺、佐藤一樹にはかつて幼馴染みがいた。


 いや、幼馴染みというよりタチの悪い妖怪? 狂犬? 災い?

 まぁ、とにかく。ヤベぇやつだったのだ。

 

 どれくらいヤベぇのかというと初対面でそこそこ硬いドッチボールを俺の顔面にぶつけ



『わたしに挨拶しなさいこの新入り!! せんぱいに挨拶するのは社会で当然のことよ!』


 そう鼻血を抑えている俺に言ってきた。この時、俺はとんでもない幼稚園に転入してしまったと自分の不幸を呪った。


 しかも、なにがきっかけになったのかは覚えていないがめちゃくちゃ懐かれてしまったのだ。


 やるなと言われた事はやる。

 行くなと言われた所は行く。

 傍若無人かつ猪突猛進。


 そんな幼馴染みに絡まれ、巻き込まれ、なにをするにもずっと一緒で……おかげで毎日誰かしらに怒られた。



 振り回される日々だった。



 けれど、俺が小学6年の時に引っ越して別れて以降一度も会ってない。


 まぁ、今となってはいい思い出……じゃないな。うん、あまり思い出したくない過去だ。


 なぜそんなことを思い出しているのか? それは今日が日本屈指の名門校である碧嶺学園へきれいがくえんへと転校して初登校の日だからだろう。


 自慢じゃないが、俺は小学6年生と中学生3年生と過去に家庭環境による事情で 2回ほど転校している。


 転校自体にはもう慣れているのだ。だからこそ理解している。

 

 転校において最も大切なのは初登校日だということを!!


 2年3組。ここが俺のクラスだ。



「入って来なさいー」



 先生の声が聞こえたので教室に入った瞬間、クラス中の興味の視線が俺に向けられる。



「佐藤一樹です。ど田舎からやってきました。仲良くしてくれると嬉しいです。皆さんよろしくお願いします」



 当たり障りのない挨拶をして頭を下げると普通に拍手が送られて来た。



「それじゃー佐藤くんは窓際で一番後ろの席ね」


「はい」



 みんなからよろしくねーと声を軽くかけられる。一人ずつ丁寧に返事をしながら良い滑り出しだなと思った瞬間



「佐藤……一樹」



 聞き覚えのある声がした。

 

 何百回と聞いたことがある女の声。その声の主に俺は釘つけになった。

 

 よく手入れされた髪にではない。

 あどけなさが残っている童顔にではない。

 引き込まれそうなその大きな瞳にではない。

 


 誰もが美少女だと思うだろう。

 

 しかし、そこには確かに面影があった。 


 おい……なんでお前がここにいる?


 新条茜しんじょうあかね


 俺の幼馴染みがそこにいた。


 し、しかも席が隣だと……おいおいおい勘弁してくれ。

 初日から心が折れそうになりながら席に着く。



「……一樹……いつき」



 え、なんかめちゃくちゃこっち見てくるんだけど。なんでだよ。怖いよ。 

 どうか人違いでありますようにと祈りながら授業を受けた。


 そして、昼休み。


 チャイムが鳴った瞬間すぐさま教室を出た。お昼ご飯を買うために売店へと向かう。


 はぁ、それにしてもなんで新条茜がこの学校にいるんだよ。人違いであって欲しかったが、あいつの顔を見れば見るほど俺の知っている茜だと思い知らされた。

 

 どうにかしてあいつとは距離を置かなくては……俺の高校生活がむちゃくちゃにされる!!



「ねぇ……」



 ま、まぁ。あいつは俺のこと覚えてないかもしれないし!! もう5年近く会ってないのだから俺のことなんか忘れているはずだ!

 


「ち、ちょっと!」



 だからこの声は幻聴だし、きっと俺に対して発せられたものではないはずなんだ!



「んねぇー!」



 誰だよ。いい加減返事してやれよ。



「佐藤一樹くん!! 聞こえてますかぁ〜!?」



 ……俺だった。


 ため息をしながら振り返ると腰に手を当てながらジト目でこちらを見てくる茜がいた。


 距離を置こうと硬く決意した矢先やばい奴に絡まれてしまった。どうしよう……



「やっとこっち向いた!! 無視するんじゃないわよ!! 全くもう!!」



 全くもうじゃないよ……勘弁してくれよ。



「あんたいつきでしょ!? 幼稚園の時転入してきて小学校6年生の時いきなり転校して居なくなったあのいつきでしょ!?」



 まじかよ。俺のことめちゃくちゃ覚えてるじゃん。

 

 



「ひ、人違いです……」


「そんなはずない!! あんたが転校してからずっと脳裏にあんたが居たんだもの!! だから間違えるはずないじゃない!」



 え? なんかちょっと重くない? あなたそんな重たい女でしたっけ?

 なんか絶対的な自信を持っているようだし、ここは路線変更だな。



「え、えっとー申し訳ないんだけど……俺は君のこと覚えてないんだよ」



 そういうとあからさまにショックを受けたような顔をして固まった。

 その様子を見て少し心を痛めたが仕方ない……だって絡まれたくないんだもの……



「そ、そんな……本当に覚えてないの? あんた、あんなに私のこと大好きだったじゃない!!」


 

 は?



「いつも私の後ろについてきて、手も握ってきて、ずっと一緒で……転校する時も『いやだー!! 茜ちゃんと離れたくない〜!!』って泣きながらー」




「いや、それ全部お前だろ!? いつも無理やり俺の手を握ってきて引っ張ってたのもお前だし! 別れる時も『私もついて行く!!』って号泣しながら俺の服を離さなかったのもお前だろうが!?」



 思わず、思いの丈をぶつけてしまった。



「………………」


「………………」



 そして生まれる沈黙。



「……私のことめちゃくちゃ覚えてるじゃない!」



 し、しまった……!! あまりにもひどい言いがかりをかけられて俺の魂が拒絶してしまった。



「ちょっとあんたお昼はぼっちなんでしょ!? ちょっと付き合いなさいよ!!」


 茜はそう言いながら俺の手を掴む。


 終わりだ……完全に目をつけられてしまった。


 どこからか、俺の平穏な高校生活が崩れ去る音がした。







 

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