第32話 あれ? もう日常パートだけでいいんじゃね?

 今日は、休日だ。

 最近、休日出勤も減り体力的にも精神的にも健康になった気がする。


 あれ? 

 精神的に健康になったら黒子力ダルクが弱くなるんじゃね?

 黒の心臓ブロークンも元に戻っていくんじゃね?


 俺はそんなことを思いながらも、今日は何して過ごそうかと頭を捻る。


「お兄ちゃん、今日は休みなんでしょ。どっか遊びに行こうよ」

「却下」

「ええ……せっかくの休日に引きこもってるなんて健康に悪いよ?」


 魔神デヴィルから精神面の心配をされてしまった。

 なんだか複雑である。


「もっと発散すべきなのよ」

「俺はインドア派なの。休日の過ごし方なんて人それぞれだろ? うちうち他所よそ他所よそ!」

「えーーーー! つまんないつまんない! ゲーセン行こうよゲーセン」


 どうやら前に連れて行ったばっかりにゲーセンにハマってしまったようだ。

 ゲーセンに通い詰めるのも精神衛生上どうなんだよ……。

 まぁ言わんけど。


 ピンポーン♪


 ん? 誰か来たな。

 俺は駄々をこねるルージュを華麗にスルーして玄関へと向かう。


「はいはい。どちら様?」


 そう言ってドアを開くと、目の前には私服を着たセピアがいた。

 私服なんて初めて見た。


「セピアか、どうしたん?」

「先輩、おはようございます。って先輩こそどうしたんですか? ほうけた顔をして」

「ああ、おはよう。セピアの私服なんて初めて見たからびっくりした」


 セピアは顔を赤らめるともじもじし始めた。かわいい。

 今日は髪を縛っていないようだ。

 細見のジーンズに、ゆったりとした上着を着ており肩からはキャミソールが見え隠れしている。


 いつもと違う雰囲気に不覚にもドキッとさせられた。

 2人揃ってモジモジしていると、俺の後ろからルージュがしゃしゃり出てくる。


「来たわね、この天使!」


 こいつ、いつも天使天使言ってんな。


「何よ。あなたに用はないわよ?」


 セピアもセピアでルージュを逆撫でするような言動を取る。

 まぁ敵対しているんだから仕方ないのかも知れないが。

 毎回毎回疲れないのかね。


「そんなことより、先輩、デートしましょう」


 横では「そんなこと」呼ばわりされたルージュが何かわきゃわきゃと喚いている。


「お兄ちゃん、あたしは、この天使を批難ひなんする事を宣言します」

「却下な」

「ガビーン! ひどい!」


 セピアはそんなやり取りを何故か少し羨ましそうな顔をして見ている。


「悪いがセピア、俺は外に着ていく服がないんだ」

「いつもスーツだもんねー」

「るせーよ。お前は黙ってろ」

「いひゃいいひゃいいひゃい」


 俺がルージュの両頬をひっぱると、彼女は情けない声を上げる。


「先輩、スーツ最高じゃないですか!」


 前のめりになるセピア。

 えぇ……キャラ変わってるのだが?


「うむ。スーツは至高なんだが、遊びに行く時に着るものでもないだろ?」

「ありです」

「なしよりのなしだろ……」

「まぁいいじゃないですか。外出ついでに服も買いましょうよ」


 その提案に俺が難色を示すも、ここで立ち直ったルージュが口を挟んできた。


「いいじゃない。ふんッ……天使もたまにはいいこと言うわね」

「なんですって、このへっぽこ魔神デヴィル!」

「何よ! ぶりっこ天使!」

「あたしはへっぽこなんかじゃない!」

「私だってぶりっこなんてしてないわよ!」


 2人は顔を突き合わせて睨み合いを始めてしまった。

 俺は勝手にやってろと、その場から可及的速やかに部屋へと戻る。

 そしてソファに座りノートPCを起動した。

 やっぱり休日は寝るかネットだろ。常識的に考えて。


 しばらく玄関の方で、わきゃわきゃ騒ぐ声が聞こえていたが、気にせずPCを操作してネットの世界へとダイブしていると、話がまとまったのか、2人揃って俺の方へとやってくる。


「ちょっと、お兄ちゃん何やってんの? 出かけるわよ!」

「先輩! 無視するなんてひどいです! 今日は外出するんですからね!」


 どうやら2人の意見が一致したようだ。

 しかし、あんな重要な事実が暴露されたのにセピアはなんとも思ってないのかね。

 自らを創造した神様がドラッグの常用者ジャンキーなんて言われたんだ。

 いや、それはないか。

 まだ事実かは分からないかも知れないが、やっぱり複雑だろうな。

 健気にも元気に振る舞っているんだから触れないでおくべきだろう。


 俺は相変わらず何か喚いている2人をスルーして視線をPC画面へと戻した。

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