「業務に関係のない話ばかりしているのが聞こえたら、すぐに席移動してもらうから。とりあえず、僕が打ち合わせに行くまでの一時間は我慢! 百瀬くん、いいね」


「はい!」


 社会人相手とは思えない指示を大真面目にする岡本も岡本だが、大真面目に頷く陽太も陽太だ。

 盛大にため息をつく千秋の胸中なんて知りもしないで、陽太はキラキラとした目で千秋を見つめて、バシバシととなりの席を叩いた。さぁ、座れ。とっとと座れ。と、いうことだ。


「じゃあ、百瀬くん。しっかりね」


 岡本は陽太の目をのぞき込んで、しっかりと念を押してから自席へと戻った。


「千秋、センパイがしっかり教えてやるからな! わからないことがあったらすぐ聞けよ!」


「……おう」


 不安を拭えないまま、千秋は陽太のとなりの席に腰かけた。

 机の下のキャビネットにカバンをしまい、さてパソコンの電源を入れようかと画面に向き直った瞬間。


「ところでさ、千秋! 昨日の夜のバラエティ、見た!? あれさ……!」


「一分とたずにアウトかよ!」


 さっきまでの岡本とのやりとりは、このボケのための盛大な前振りだったんじゃないかと思うほど。あっけらかんと、秒で、業務に関係のない話をし始めた陽太に、千秋は力いっぱいツッコミを入れた。

 入れて、しまった――。


 思わず飛び出した大声に、千秋は慌てて口を押さえた。

 陽太も、千秋のツッコミで自分がやらかしたことに気が付いたらしい。


 二人そろって口元を手で押さえ、ゆっくりと島の対角線に座っている岡本に顔を向けると――。


「はい、小泉くん。僕のとなりに引っ越しで」


 岡本がパンパン! と、手を叩いて、にこりと微笑んでいた。

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