**01-03 心より殺意をこめて。②**
1
プロジェクトに関する説明を終えて、打ち合わせ用の個室を出た千秋と岡本は、顔を見合わせた。
陽太の席のまわりにチームメンバーが集まっていたからだ。
「またにぎやかにしているね」
人だかりを遠目から見て、岡本は困ったように微笑んだ。
岡本の話だと、お喋りが過ぎてチームメンバーに迷惑がられているようだったけど。それは彼らも仕事があるから……というだけのことだろう。
今、陽太を取り囲んでいるチームメンバーたちの笑顔からは、仲の良さがうかがえた。困り顔の岡本からも、だ。
――ヒナのやつ。ああいうところも、学生時代と変わんないんだな。
クラスメイトに囲まれて笑っていた、ブレザー姿の陽太を思い浮かべて、千秋は笑みをこぼした。
にぎやかで、図々しくて、迷惑もいっぱいかけられたけど。陽太のああいう性格は憧れというか、尊敬している。
助けられたことも、たくさんある。
あいさつのときのことがなかったら、岡本とも事務的なやり取りだけで終わっていたかもしれない。打ち解けるのに、もっと時間がかかったかもしれない。
――迷惑って思ったけど……感謝、しないといけないのかな。
“感謝”なんて言うと、大仰しくて気恥ずかしくなってしまうけど。
千秋はぽりぽりと、ほほを掻いた。
席に戻ってきた千秋と岡本に気が付いて、陽太がパッと顔をあげた。
「おかえりー! どうだった、岡本先生の授業」
チームメンバーたちも笑顔で、おかえりと言って迎えてくれた。千秋は照れ笑いで、ただいまと返した。
「先生じゃなくて課長ね、百瀬くん」
「その言い方! めっちゃ先生っぽい!」
陽太は課長相手とは思えない砕けた口調で言って、手を叩いて笑った。
――見てるこっちがひやひやする……。
困り顔で微笑む岡本と陽太の顔を、千秋はおろおろしながら見つめた。
と、――。
「俺、みんなに千秋のこと、いろいろ話しといたから! 安心して仕事しろよ!」
陽太は無邪気な笑顔で親指を立てた。
千秋はじーっと陽太の笑顔を見つめたあと、
「…………」
陽太を無言で指さして、チームメンバーの顔をぐるりと見まわした。
――コイツ、何、話しやがった……。
千秋の無言の問いを察したらしい。チームメンバー四人は顔を見合わせたあと。
「とりあえず苦労人ってことはよくわかった」
声をそろえて言った挙げ句、力強く親指を立てた。ものすごく同情されている。憐みの目を向けられている。
何を言ったのかはさっぱりわからないが、よけいなことを言ったということだけはわかった。
と、いうか――。
よけいなこと以外、言わないのだ。こういうときに、この幼なじみは。
千秋が目を向けると、陽太はドヤ顔で親指を立てた。全くもって悪びれたようすはない。なんならほめてオーラが出ている。
千秋は無言で陽太の目の前に歩み寄ると、
「やっぱり迷惑だ」
「やっぱりって何……っ、ぐぇ!」
無の表情のまま、きゅっと陽太のネクタイを締め上げ――もとい、直した。
岡本がそっと千秋の肩を叩いて止める頃には、陽太の顔はすっかり白くなっていた。
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