第12話 失ったもの

―――彩葉side


 あれから私、何処まで走ったんだろう。


 気づけば辺り真っ暗になっていて。


 目がまた随分悪くなっている気がする。


 事故にあわなかったのも奇跡だった。


 だけど飛び降りたときに足をくじいた…よりは捻挫、といえばいいだろうか。

 触ればすぐに腫れているんだろうということがわかる。


「てか、帰る家なくなっちゃったな」


 多分湊は保健室に行って、何があったかは知らされたんだろう。


 それより天童さんが居たのだから絶対伝わっている。


「ちょっと休憩」


 走り続けていた私は、公園の隅に座った。

 その公園には街灯が一つしか立っていなくて、とても薄暗い場所だった。


「まるで、私みたい」


 ううん、私はこの公園より暗い。


 寒さで感覚が麻痺して、そのおかげで逆に温かいような気さえしてきた。


 ここで死ねるなら、本望かもな

 なんて思ったりするけど

 死にたい?って言われたら友達や家族がいるから微妙。

 でも生きていたい?って言われたら何も答えられない。


 …この時間帯はざわざわするなぁ

 まぁここシブヤだもんね、


「いいなぁ」


 ロック系の音

 しっとり系の音

 明るい音

 混ざってて気持ち悪い。

 だけど


 全部、羨ましいな、と思ってしまう。


 ぼやけて見えないこの目でも

 キラキラが伝わってくる。


 グー

 お腹空いた


 暖かい家があって

 食べ物があって

 布団があって

 なにより、大切な家族がいることは、


「当たり前じゃ…ない」


 これを実感するのは、今になってからでは遅いな

 人間は、きっと過酷な状況にあったときに

 普通を羨ましがる。


「眠い、」


 お腹はすいてるし眠い。

 でも空腹より眠気に耐えられない。


 ずっと走り回っていたからだろうな

 疲れを取るためには寝るのが一番


 そう思い、私はぼーっと歩いて行って近くのベンチに横になる。


「…、ちょっとだけ」


 ちょっとだけ

 休ませて。


 そして私はそのまま眠りについた。


「連れて行っちゃったほうがいいよね」

「えぇ、本当は自分から来てほしかったのだけれど…」

「ごめんね」


 ――最後に薄っすら聞こえたのはそんな言葉だけ。

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