第1章

プロローグ

「ずっと、ずっと楽しみにしてたのに…」


 家中に私の声が響いた。

 お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、私の方をずっと見てくる。


「お姉ちゃんの体が弱くなかったら…今日の温泉旅行、行けてたのに……」


 下を俯いては小言のように発する。


「本当、ごめん。」

「許せるわけないでしょ!?」


 すぅっと息を吸っては叫ぶ。


「年に一度ぐらいの旅行なんだよ!?それが中止だよ!?

 今日までのワクワクは、一体どこに…」


 ほぼ半泣きで訴えた。

 いや、泣いてたのかな?でもそんなこともわからないや。

 そのくらい悔しくて、悲しかったんだから。


「だから本当にごめんって…」

「はぁ!?」


 その時、ずっと横で黙っていた兄が口を開いた。


「彩葉!!!」


 ひえ、っと思わず声が漏れてしまいそうなぐらいの怒鳴り声で、びっくりして跳ね上がった。


「絃葉はどれだけ我慢をしてきたと思ってるんだ?自分の体が弱いから普通の人とは違う生活をして。ろくな友だちもできなくて。寂しかっただろうに、なんで彩葉はそれをわかってやってくれないんだ?もうちょっと人のことも考えろよ!!!!!」


 はぁ。


 お兄ちゃんはいつもお姉ちゃんのことばっかり。


 お姉ちゃんがいればそれでいいんでしょ?


 なら私は、


「ふう。」


 この家を出る。


「さようなら。」

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