第16話
「やってみなさいよ。あんたは演じる事でしか、生きがいを感じれないんでしょ?だったら後悔しないように活動拠点を移すのも素敵な選択だと思うわ。玉砕覚悟の気概はいるけどね」
詩織がロングの黒髪を掻き上げて、一息つく。
「それに、これは長年あなたを間近で見てきた私の意見なんだけどね。あなたは表現者として、とんでもない才能を秘めているの。私の鑑識眼が言ってるんだから断言出来る。だから、みなみがこんな些事で活動を終焉するのなんてみたくないの。勿体なさすぎる。だからお願い。私のためにもネットで再起を測って欲しい」
詩織の並々ならぬ思いが詰まった懇願に、相楽みなみは茫然とし言葉を失った。
こんなに自分の事を想ってくれているのかと、目頭が熱くなっていく。
やっとの思いで口にだした彼女の言葉はなんとも弱気な発言だった。
「でも私1人で新規開拓していくなんて無理よ。何から始めていいかも分かんないし」
「誰が1人でやれって言ったのよ」
「えっ?」目を剥いて聞き返す。
「私も一緒にやるに決まってるでしょ。一連託生よ」
「詩織。」弱々しく呟いたみなみは、その直後当然の疑問を口にした。
「仕事はどうすんの?忙しくなってくるんじゃないの?」
「あんたみたいな有望株を切り捨てる会社に未練はないわ。昨日辞職してきたわよ」
「やめたの?私のために?」驚きを隠せない様子でみなみが椅子から立ちあがった。
「なに自惚れてんのさ。今後の私の成長に繋がると思っての英断よ。まぁ強いて言えば、あんたの居ない事務所に魅力がなくなった、てのも大きいけどね」
詩織、と声高々に泣き叫び、心友に抱きついた。
「私また演技ができるの?」歓喜の声が漏れた。
神崎詩織は彼女の頭部を優しく撫でる。
妹が居たらこんな感じかなとしみじみ思った。
すすり泣くみなみの耳元でやさしく囁く。
「今からは苦しみも悲しみも2人で折半よ。勿論給料もだけどね」
みなみの表情から笑みが溢れた。そして言う「せめて6:4で、勿論私が6よ」
2人は声を出して笑った。その後、益体も無い話で朝まで語り合った。
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