第40話 僕の決意


 気がつくと、なぜか僕にそっくりな人も、黒猫と抱き合っていた美しい少女も消えてしまっていた。

 僕はわけがわからなかったが、何とか太ももの傷を止血すると、這うようにして来島に近づいた。来島も慌てて僕に駆け寄ってきた。


「三毛神! 無理するな、すぐに救援を呼ぶからな。」


「ありがとう、来島。」


「なんだよ。なんで笑っているんだ? 気味が悪いぞ。」 


 僕は自分でも理由がわからないが、なぜか笑みを浮かべていたみたいだった。


「いや、来島が生きてるから。生きてるっていいな、と思って。」


「なんだそりゃ? お前、ヘンだぞ。ヘンと言えば、さっきのはありゃなんだ? 三毛神、お前の手品か?」


 僕は首をふった。話している僕たちの方に、黒猫が近づいてきた。


「私は出頭する。その代わり、暗黒の一日に病院で起きた事件の徹底調査を要求するわ。」


「もし企業政府が聞き入れなかったら?」


「その時は、もうひと暴れするだけね。」



 それを聞いて僕は、僕が知っていた誰かによく似ているな、と笑いをかみ殺した。




 数日後。




 僕の目の前には、窓がない黒い高層ビルがそびえたっていた。出勤する職員のアリのような列が僕を避けていった。

 僕は完全武装していて、弾は実弾を装填していたし、手榴弾とロケット砲に爆薬もたっぷりと持ってきていた。


 こんな時に、僕には心強い仲間がたくさんいたような気がしたが、どうしても思い出せなかった。

 僕は索敵ゴーグルを装着すると、ゆっくりと高層ビルに向かって歩きだした。



「三毛神!」



 後ろから来島が追いついてきて、息が荒かった。


「お前、ひとりでいくつもりだったのか? 俺にも声くらいかけろよ!」


 彼は僕の肩をこづいてきた。


「いいのか? どう少なく見積もっても、警備兵は数百名はいるよ。」


「上等だ。」


「ありがとう、来島。また君の実家に遊びに行きたかったな。」


「いつでも来いよ! 俺の姉貴も会いたがってたぜ。」



 僕と来島はライフルを構えると、ビルに向かって再びゆっくりと歩き始めた。

 情報摘発センターの本部である建物を破壊するために。



「レイちゃん、バカじゃないの? きっとバカよね。」



 僕には、誰か知っていた人の声が聞こえたような気がした。

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