同行者
翌日。
エステルは朝早くから、シモン村自警団が詰所として使っている小屋へと向かった。
昨晩、両親から条件として提示された通り、一緒に王都に行ってくれる人を探すためだ。
「おっはよ〜!!みんな!!」
ばーん!と勢いよく詰所の扉を開け放ちながら、元気よく挨拶する。
中には数人の団員たちが、朝の見回りの準備をしているところだった。
「おはようございやす!!エステルの姉御!!」
「「「おはようございやす!!」」」
……まるでどこぞの山賊団のような挨拶だが、もちろん彼らは善良な村民である。
この村一番の実力者であるエステルに敬意を払っているだけだ。
多くの団員はエステルよりも年上の男が多いが、実力が全ての自警団ではそんなものは関係ないのだ。
「どうしたんだ、エステル?領都に行くからってんで暫く非番にしてたんじゃないか?」
そんな団員たちの中にあって、気軽な口調で彼女に話しかける者がいた。
「あ、おはよクレイ。領都には昨日日帰りで行ってきたよ〜」
クレイはエステルの同い年の幼馴染だ。
物心付いたときからいつも一緒にいた、気心の知れた友人である。
「そうか。でも非番の予定は変わらないんだろ?」
「うん。ちょっと皆に話があって来たんだよ。実は……」
そして彼女は、昨日の経緯を団員たちに説明する。
「そんな……姉御が王都に行くだなんて!!」
「はいっ!!俺が一緒に行きます!!一緒に騎士を目指します!!」
「あ!?テメー、抜け駆けするんじゃねぇ!!俺が行くッス!!」
「いや、そこは俺だろう!!」
エステルから事情を聞いた団員たちは、我こそはと名乗りを上げて……やがて大騒ぎとなる。
「へぇ〜……皆、そんなに王都に行きたかったんだ〜」
「いや、違うだろ……」
どこかズレたエステルの感想に、クレイは冷静にツッコミを入れる。
これまで彼女を女性として見る者は多くはなく、頼れる親分的なポジションだったのだが……最近は特に(見た目は)女性らしくなってきたこともあり、男たちを魅了するようになってきたのだ。
エステル自身にはその自覚はなく、無防備な彼女にクレイはやきもきさせられるのだった。
「う〜ん……でも、村の守りもあるから一人だけね」
「姉御と二人きり……!」
「ええ〜い!!こうなったら!!実力で決めようぜ!!」
「お、おい……!」
ヒートアップする団員たちを、クレイは落ち着かせようとするが……時すでに遅し。
誰がエステルと王都に行くかを賭けて、自警団員たちによるバトルロイヤルが行われる事になったのだった。
「……こりゃあ、何の騒ぎだ?エステル」
「あ、お父さん!!何かねぇ、私と王都に行くのが誰かを実力で決めるんだって〜」
村の広場に集まった自警団の若者たちの騒ぎを聞きつけてやって来たジスタル。
娘に事情を聞くと、呆れ顔になりながらも納得するのだった。
「……まぁ、手っ取り早いわな。んで、お前も参加するのか、クレイ?」
「え、ええ……。僕も、エステルを一人で王都に行かせるのは、心配ですからね……」
ジスタルに問われたクレイは、バツが悪そうに視線を反らして答えた。
実際のところ、彼は別にエステルに恋心を抱いてる訳ではなく、どちらかというと妹を心配する兄のような心境だ。
(……こいつもお人好しだからなぁ。まぁ、こいつが一緒に行ってくれるなら、エドナも俺も多少は安心出来そうだが)
彼の心情を察したジスタルはそれ以上は何も言わなかったが、頼もしそうな目を向けるのだった。
そして広場にはジスタルだけでなく、多くの村人が集まってくる。
ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
娯楽の少ないシモン村ではいい刺激となるのだろう。
「よし!!準備はいいな?」
「誰が勝っても恨みっこ無しだからな!!」
「へへ……今こそ俺の真の実力を見せたらぁ!!」
「ふへへ……姉御と二人きり……」
団員の誰もが気合十分。
何人かは色ボケした表情だが、かえって実力以上の力を発揮するかもしれない……
そして、エステル争奪戦 (?)の戦いの火蓋が切られた!!
「そこまで!!勝者クレイ!!」
エステルが勝者の名前を告げる。
最後まで生き残ったのはクレイであった。
彼はエステル程ではないが、幼い頃から彼女と一緒にジスタルから手解きを受けて来た実力者だ。
自警団の中でもジスタル次ぐ力を持つ。
順当な結果と言えるだろう。
「あ〜、くそっ!!負けちまった!!」
「くぅ〜……あともう少しだったのに!!」
「でも、まぁ……クレイなら仕方ねぇかぁ……」
「おい、クレイ!!姉御をしっかり守るんだぞ!!」
「頑張って騎士になれよ!!」
戦いに敗れた団員たちは悔しがるが、実力的に妥当な結果には納得を見せ、気持ちを切り替えてクレイを激励する。
「じゃあクレイ、よろしくね!!」
「あ、あぁ……」
「でも、いきなり王都に行くって、大丈夫なの?」
今更ではあるが、エステルはそれが心配だった。
クレイは母親と二人暮しだ。
父親は彼が幼い頃に病気で亡くなっており、男手と言えば彼だけなのである。
エステルが心配するのも無理はない。
「大丈夫だよ。蓄えもそれなりにあるし……それに、もし王国の騎士になれるなら、仕送りもしてやれるしな」
そう言って彼はエステルに心配をかけまいと笑顔を見せる。
「そう?じゃあ、一緒に騎士を目指して頑張ろうね!」
「ああ……!」
エステルに流された形ではあるが、彼も未来に希望を抱く若者だ。
新たな目標を得て、その目はやる気に満ちていた。
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