ダブルベッドに死体がひとつ(その26)


・・・ネットで、山口優斗が本件の妻殺しで逮捕されたニュースが飛びかっていた。

「余計なことをやってくれましたね」

顔を見るなり、弁護士が険しい顔で言った。

「東條さんから防犯カメラの話を聞いて、警察に通報しました。いずれ、このことは分かることですので・・・」

杏奈は、山口逮捕にもまるで動じていないようだった。

「自供した上、マンションの防犯カメラに出入りが映っていて、凶器も見つかった。これで有罪は確実です」

弁護士は匙を投げたようだ。

「どうやって殺したとか、すべて白白したのですか?」

そうたずねると、弁護士は、『今さら何を』という顔をしたが、

「どうなんです?」

と重ねてたずねると、

「いや、相変わらず黙秘です」

と渋々認めた。

「では調書は取れませんね。調書が取れなければ起訴に持ち込めないのではないですか?」

と念を押すと、

「ああ、否認でも証拠がそろっていれば起訴はできますよ」

弁護士は小馬鹿にしたように言って、鼻の上のメタルフレームの眼鏡を人差し指で押し上げた。

「もう山口さんの弁護はできません。・・・ご本人が弁護士の解任届を提出しました。まったく呆れてしまって笑うしかありません」

と弁護士が苦々しく言ったので、応接室は沈黙に包まれた。

・・・もはや打つ手はなかった。

その沈黙を破るように、

「私の結婚詐欺の訴えを取り下げます!」

と杏奈が叫んだ。

「浅村さん、何を今さら・・・。本件の殺人罪で逮捕されたのですから、もはやどうでもいいことです」

「山口は無罪です!」

弁護士は杏奈をしばらく見つめていたが、肩をすくめ、ガラスのテーブルの上の書類をかたずけながら、

「本人が認めているのですから・・・」

と投げ出すように言った。

「でも、自白したあとは黙秘しています・・・」

横から口を挟むと、

「それが何か?」

弁護士は本気で腹を立てたのか、ぶっきらぼうに答えた。

「山口は認めていないのです。妻殺しを!・・・でも、罪は認めています!」

杏奈は、いきなり立ち上がった。

弁護士は困惑した顔で杏奈を見上げた。

「こころの中の罪を認めているのです。じぶんのまちがった行いが殺人を引き起こして、妻が殺された。その罪は殺人と同じように重い。・・・だから甘んじて罰を受ける、と」

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