序外2 キューズside

 ワタシは今、ほんのちょっぴり気が晴れている。

 シュウ・モダトとかいう、口だけ達者で何の能力もないカスに不利益な情報を流したからだ。

 奴の苦々しい顔を拝んでみたい気もするが、その役目はに譲ってやるとしよう。



 それよりもワタシには、優先すべきことがあった。



 魔鉱石の洞窟を出て、森の中を進む。ある地点まで行くとその姿はあった。

 ワタシの相棒だ。にこにことした表情で出迎えてきた。



「ねね、どうだった?」



 開口一番こんな口を利く。あのカスに従っていたワタシに労いの言葉もない。まぁいつも通りだから気にすることすらしないが。



「君の見立て通りだった。クロト・アスカルドの魔力には底が無いようだ」



 報告を聞いていた相棒は尚もにこにことしている。笑顔でも貼り付けているのか、と言いたくなってしまうくらいの満面の笑みだ。



「そっか、それなら良かった。も少しは役に立ったってことだね。随分ウチの人達を使っちゃったみたいだけど、収穫はあったしまぁいっか」



 言ってる間もにこにこ、貼り付けた笑顔をしている。表情が読めない、と相棒を知らない人間が見たらこう評するだろう。正しい反応だ、とワタシも返答するだろうが。



 

「シュウ・モダトは放置でいいな?」

「いいよー。捕まって情報を吐いたとしても、ウチの末端の末端しか接触させてないからからわたしの存在が漏れることはないと思うし。もし不都合が起こるようなら対処するから大丈夫だよ」



 鼻歌でもするかのような口調で言う。簡単に言うものだから困ったものだ。



「それよりもクロト君だよクロト君! やっぱりただ者じゃなかったよね!」

「そのようだ。君の観察力には敬服するよ」

「ずっと見続けてた甲斐があったねぇ。うーん無限の魔力かぁ。不可解な性格の人には不可解な能力が似合うもんだね! なんだかときめいちゃうなぁ、キューズもそう思うでしょ?」



 子供のように無邪気な質問に、ワタシは首をすくめることしかできない。ワタシにはその「ときめき」は理解できなかった。



「それで、これからどう動くつもりだ?」

「そうだなぁ……とりあえず、クロト君がフォーディアに来るまで待とうかな。遅かれ早かれ、大きな街には向かう筈だからね」

「承知した。ではワタシに合流しておく」

「うーん、なんだかもうワクワクしてきたなぁ」



 ワタシの言葉を聞いているのかいないのか、相棒は目を輝かせているばかりだ。全く、相変わらずで安心してしまうな。



 溜め息をついていると、相棒が大手を振ってこちらを呼んでいる。



「ほらキューズ行くよ! 待ち遠しくて仕方ないんだから!」

「……奴が来るのはもっと後だろうが」



 溜め息が止まらない。本当に子供を相手にしているようだ。しかし不快感はない。手のかかる子供ほど可愛いもの、と聞き及んでいるからな。これがワタシの相棒なのだ。



「……分かるといいな、君の欠けたところが」

「ふふ、絶対分かるよ。初めてだもん、こんな気持ち」



 屈託なく笑う相棒の顔を見ていたら、ワタシも口元が緩んでいた。

 ワタシ達の足音だけが、静かな森に反響していた。


 

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