無限魔力のザコ剣士と黒い炎のブジン
きんぐこぶら
序章 追放と約束
序1 追放のお人好し①
俺の特徴と言えば、と人に聞けば決まって『お人好し』と返ってくる。
自覚がないわけではないが、自称はしていない。あくまでも他人からの評価だ。非難される性格でもないから、それでいいと思っている。
今日もいつも通り、鉱脈のある洞窟に潜って魔鉱石の採掘に勤しんでいる。専用のつるはしを振っては空色に光る石を削る。魔力の色も様々だが、この色は水属性を内包しているらしい。
かきんかきん、と無機質な音と俺の吐く息の音だけが辺りに響く。
楽しくはない。生きるために必要だからやってるだけだ。
「また出た」
吸魔コウモリが魔鉱石に群がってきた。紺色の体毛と紫の目が俺の視界を右往左往している。邪魔くさいな、と思いながら剣を抜く。
「うわうわ、群がるなよ……」
コウモリに集られる。こいつらは魔力なら鉱脈の中だろうが人間の中だろうがお構いなしに食べにくる。こいつらは腕に噛みついて吸血ならぬ、吸魔を得意としているのだ。
まぁ、俺にはあまり関係ないのだけど。
剣を振るって一匹、二匹と倒していく。斬ったそばからコウモリの体が霧散していく。魔物の特徴として、亡骸は残らない。代わりに球状の魔物の核がその場に残る。魔物討伐依頼の際には必要だけど、今の俺には関係ない物だ。
三匹目を倒し、討伐を終えた。一息ついてから再びつるはしを握って、鉱脈と向き合った。あとどれだけ採れば良かったんだっけ。落ちた核には目もくれずに、とりあえず採掘を再開する。
「はぁあ……」
これも人助けの一環だ、分かってはいる。でも疲れてなのか、はたまた自分の現状を嘆いてなのか、大きな溜め息をついてしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
魔鉱石を詰めたずた袋を担いで、村まで帰ってきた。がちゃがちゃと石が擦れる音が俺の成果を表している。陽は傾いていて辺りはもう薄暗くなっていた。
俺の拠点としている『ロッソ村』は、端的に言って僻地にある。とは言え村人がいないわけではない。街には宿屋や酒場、道具屋もちゃんと揃っている。ギルドの支部もあるし、村人の生活には事欠いていない。
だからこそ、ギルドとしては少々問題があって。
「戻りました」
「おおクロト、お疲れさん」
ギルドの受付に顔を出して、受付のおじさんと挨拶を交わす。ずた袋をカウンターに置いて、おじさんが中身を
「おし、十分だな。ほれ報酬だ」
ずた袋に代わって小さな小袋を受け取る。入っているのは五枚の金貨、報酬の五百ギルカだった。
「ありがとうございます」
「おう。いつも助かってるよ」
会釈をして、ギルドの掲示板を確認する。村人から寄せられた依頼はもう貼られていなかった。落胆の溜め息をついてから踵を返した。
「はっはっは、今日も全然依頼がなかったなぁ」
おじさんが大口を開けて笑った。つられて俺も「はは」とだけ言ってしまった。
「平和なのは良いことなんだけどよ、こうも少ないと俺達も商売上がったりだよなぁ」
「はは、まぁそうですね……」
「依頼も週に何回かの魔鉱石の採掘だけ。全く、何の為にギルドがあんだよって話だよなぁ?」
「はは……」
魔鉱石の鉱脈は、大抵鉱山にできる。その鉱山も僻地よりももっと大きな街の近辺にあるのが殆どだ。僻地であるロッソ村の近く、しかも洞窟の中に鉱脈があるのはとても珍しいのだ。
そんな理由から、この村にあるギルドには定期的に採掘の依頼がくるのだが、如何せんここの住人は逞しかった。生活の殆どを自分達で賄えているのと、魔物も数が少ないのも幸いして、村人からの依頼も月に片手で数える程度しか寄せられない現状だった。
おじさんの言う通り、平和なのは良いことだ。
俺は人助けが好きだ。ギルド
でも、俺には夢があった。
何を賭しても叶えたい、果たしたい約束があった。
だからもっと依頼をこなして、もっと強くなりたかった。
それは、この現状ではきっと成し遂げられない。もう随分と遠ざかってしまった。
「じゃあ俺、帰りますね」
「おおそうか、本当にお疲れさんな」
おじさんと別れて俺は帰路に着いた。ギルドを出て、宿屋に向かう。
宿屋に到着して自分にあてがわれた部屋に入る。一応借り部屋だ。月に一度家賃を払って、疑似的に住まわせてもらっている。最も立ち寄る旅人も少ないから、空き部屋だらけだけど。気兼ねなく借りれるのが利点かもしれない。
ベッドに寝転がってぎし、と軋ませる。ちょっと古めだから、身じろぎする度にぎしぎしと音が鳴る。
「ふう」
今日の疲れを忘れるように、俺は目を閉じた。そのまま無心で意識を手放すのを待つ。ひたすら、思考をしないように待ち続ける。
考え事をしていると、つい追い出されたあの日を思い出してしまうから。
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