第152話フォークからフォークへ
——◆◇◆◇——
「——それでは、これより魔創具の改変を行ってくる」
今回は再生成というよりも、魔創具の強化自体は行わずに少し形を変えるだけなので、改変と呼ぶことにした。
「ボスなら問題ないとは思うが、十分に注意しろよ。少しでも異変を感じたら、すぐに止めるんだぞ」
バイデントの面々が心配そうにしながらこちらを見て忠告してくるが、他にもルージェやマリア、リリエルラなど知り合いも集まってきている。随分と心配性なことだ。
あいにくとオルドスは外回りに出てまだ戻ってきていないが、まあいつやると打ち合わせをしたわけでもないので仕方ない。戻ってきてから驚かせることにしよう。
しかし、そんな過保護な観客ではあるが、言われるまでもなく異変を感じたらすぐさま止めるつもりだ。流石に今回は失敗するのはまずいと分かっているからな。
「わかっている。俺も、こんなところで死ぬつもりなど毛頭ないからな」
「もしボスに何かあったら、私たちは王様んところに乗り込むから。だから、そうならないためにも絶対に無事で戻ってきてよね」
「無事でいるつもりではあるが……なぜ乗り込むなどという話になった?」
「だって、ボスがここにいるのはバカな王様のせいでしょ?」
「あー、ついでにトライデンのバカの方も処理するかもー?」
「それはやめろ……はあ。そうならないためにも、完璧に成功させてくるとしよう」
確かに俺がこうしてこの場所にいるのは国王のせいと言えないこともない。あの日刻印堂をしかと確認するようにしておけば、あるいは警備をもっと厳重にしておけば、俺が儀式に失敗することもなかっただろうから。
トライデン家に関して言えば、これはわかりきっていることだ。父もそうだが、ロイドの方は自身の身勝手な思いから裏の人間を雇い、俺の儀式を失敗させようと目論んだ。その狙いは成功し、実際に俺は儀式に失敗してここにいる。
そして、俺が今回儀式に失敗して死んだとなれば、そもそも俺に二度目の儀式をやらせるような状況を作った者が悪い、と考えることができなくもない。つまりは先ほど言った国王とトライデンが原因であるとなるわけだ。
だがしかし、仮に俺が失敗して死んだとしても、俺はその復讐を行うことを望まない。もしそんなことになれば、大規模な内乱に発展する恐れがあり、無辜の民も巻き込まれることになりかねない。それは俺の望むところではない。
……とはいえ、だ。そんな問題を起こさないようにするためには俺が死ななければいいだけの話だ。今回の儀式、見事に成功すればなんの問題もなくなる。
「それではいってくる」
それだけ告げると、あとは止まることなく新しく作られた刻印堂の中へと入っていった。
中にはいるとかなり狭い空間となっており、ここに素材を置いて中心に座るとなれば、かなり狭くなることだろう。
だが、狭い分その効果のほどは確かだ。外部からの襲撃を受けても、それがドラゴンの一撃でもない限りは内部に影響はない。仮にドラゴンほどの一撃だったとしても、数発程度であれば耐えることもできるはずだ。
空気の浄化も問題なく機能しているし、これならば高効率で魔力の操作を行うことができるだろう。
「さて、それでは始めるとするか」
意識を切り替えるためにそう口にし、部屋の中央に腰を下ろす。
腰を下ろしてから改めて深呼吸をし、新たに作った紋血を取り出し、床に置く。これで準備は整った。
「こうして緊張するのは久しぶりだな」
いざ魔創具を作り直すことができるとなると、どうしたって緊張する。吐き出す息も、手も、自分の意思に反して震える。
だが、その震えを意思でねじ伏せて拳を握りしめる。
今度は……今度こそは失敗などしない。
そう改めて覚悟を決め、魔創具を作り直すための儀式へと取り掛かった。
——◆◇◆◇——
「ボス!」
「戻ってきた!」
「無事? 怪我は? なんか体のどっかが悪いとかない?」
刻印堂に入ってからしばらくして、儀式を終えた俺は疲労からふらつく足で刻印堂の外へと出ていったのだが、どうやらまだ待っていたようで仲間達が心配そうな表情でこちらへと駆け寄ってきた。
「ああ、そこは問題ない」
怪我をしたり、体調不良があったり、なんらかの障害があるといったことはない。精神面ではどうなっているのか自分では今ひとつ把握しづらいものではあるが、これもおそらくは問題ないであろうと思われる。
そのため、そういった点ではなんら問題ない。だが、全てにおいて問題がないわけでもなかった。
「そこはって……他に何かあったの?」
「まあ、問題がないわけでは……」
しかし、その問題についてどう説明したものか、そもそも説明すべきことなのだろうか、などと考えていると、この場に登場人物が新たに一人加わることとなった。
「アルフレッド!」
やってきたのはこの街を出て近くの村々を巡っていたオルドスだった。どうやら急いで戻ってきたようだが、それがちょうど今だったというわけだ。この様子では、戻ってきて休むことなく一直線にここまでやってきたのだろう。
「儀式は……間に合わなかったか。いや、だがそれはいいかそれよりも……どうだ? 魔創具を取り戻すことはできたか? ……いや、まて。その表情はもしかして……」
「……形を変えることはできた」
俺の表情が完璧な成功をした際に浮かべるような笑顔ではなかったことに気づいたオルドスが問いかけてきたが、こいつが思うような失敗はしていないのだと安心させるために一応の成功をしたことを告げた。
「そうか! なら成功したのだな」
確かに成功はした。だが、完璧な成功ではなかった。
「半分成功、と言ったところだ」
「半分……?」
「見せた方が早いだろう」
そう言ってから自身の手を見下ろし、わずかに逡巡したのちに魔創具を作り出し、その柄を握った。
「これは……なんだ?」
オルドスは、新たに生成された俺の魔創具を見て困惑したような表情を浮かべたが、まあそう思うのも無理はないだろうな。
「先端が三又にわかれた金属製の長柄武器だ」
「いや、言葉にすれば確かに間違いではないのだが……その、なんだかバランスが悪くないか?」
だろうな。何せこれは武器ではないのだから。ただ、完全に意味のない形が生成されたと言うわけでもない。この形にはこれはこれで意味のある形であり、とある専門の道具なのだ。
「これじゃあどっちかっていうとフォークだね」
新たに生成された俺の魔創具を見て、ルージェが関心半分揶揄い半分で発言したが、そうまさしく『フォーク』と呼んで良い形状をしているのだ。
「フォーク? これのどこがフォークだというのだ」
「あれ、王子様は知らない? 巻藁とか移動させたりするのに使う農業用の道具に、『フォーク』ってあるんだよ。ちょっと形は違うけど、トライデントよりはそっちの方が近いでしょ」
まあオルドスは実際に農機具を使用しているところを目にしたり、その器具の名称を勉強したりなどとはしていないからわからないのも無理はない。何せこいつは〝王子様〟だ。
今回周囲の村々を回ったのだって、税や環境についての話や、賊や魔物による危険の調査のためだったはずだ。農村だって王子が来ると言うのであれば失礼のないように村人を隠したり、作業を中断させて出迎えさせたりするだろうから、実際に農作業の風景を見ることはなかったのだろう。
しかし……
「食器用のフォークから抜け出せたと思ったら、今度は農業用のフォークか……結局、『フォーク』という呼び名からは抜け出せないというわけだ」
形は幾分かマシになったとはいえ、結局『フォーク』であることに変わりはない。なんだこれは。もしや俺は呪われているのではないだろうな。フォークの呪いなど、わけがわからなすぎるぞ。
「ちなみにだけどさ、これって前の形に戻したりとかはできないの?」
「さて、どうだろうな。そこまで確かめていないのでわからんな」
正確には確かめる精神的な余裕がなかっただけだが、試していないことは事実だ。
さてどうなのだろうかと、ルージェの言葉を確認するように手の中にあったフォークを食器のフォークへと変形させるように念じるが……失敗。
では一旦取り込んでから改めて生成し直すのであればどうだ、と思い実行してみたが今度は成功した。どうやら俺は二種類の『フォーク』を作れるようになったらしい。
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