ナナシのハナシ【短編集】
錫色 厚
0.目覚めの朝
おもむろに目が覚めた。二度寝をする気にならないから体を起こす。服を着替えて、長くて白い髪を手鏡で確認しながら、寝癖を直す。
ベッドから降りて、手順通りに畳む。するとさっきまで寝ていたベッドが向かい合わせの座席になった。どこがどうなってベッドから座席になったのかは理解できる。しかしこの構造を考えた人は何から着想を得たのか、全く想像がつかない。
扉を開けて個室から出る。揺れる列車の中、細い通路でバランスを取りながら進んで購買専用の車両へ向かう。
「コーヒーを一つ頼みます」
車掌の自立型魔法人形(ゴーレム)に注文。メニュー表に従って銅貨を二枚、カウンターに置いた。支払いを確認した自立型魔法人形は蓋つきのカップを三つ、台座に固定して紙袋に包んで渡してくれた。「ありがとう」と言って自分の個室へと戻る。
壁の取っ手を掴んで折り畳まれていた机を展開。注文したカップを三つ並べる。コーヒーに、付属でミルクと角砂糖。よく見れば台座に小さな匙も用意してくれていた。それらを適当に混ぜ合わせて、口に運ぶ。砂糖とミルクの甘み、コーヒーの温もりで体を温めながら眠気を飛ばす。
「この先には一体、どんな国があるのかな?」
山岳から顔を出す朝日、という絶景を眺めながらそんな期待を私は呟く。
再びコーヒーを口へと運び、顔をしかめる。
「砂糖、入れ過ぎたな」
残りは味わうことなく、一気に飲み干した。
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