マダム リュミエラ・コフレタビジュー

小木原 見菊子

マダムリュミエラ・スプリングコレクション

プチコフレ(1)

「魔女ババア!!!」

「帰れ!!!」


 私は言ってやった。

 上品なマダムに対して、魔女ババア、なんて言うお子様は、お帰りいただかなくてはね。でも……。

「ちょっと待ちなケビン!」

 私はケビンの首根っこを掴んだ。

「新作はたとえアンタでも見せられないけど、私のランタンを持っておゆき。貸してやるから。もう暗いからね」

 小さな黄水晶が外枠に埋め込まれたランタンをケビンの手に握らせてやる。

 小さくても、かなりの範囲を照らす、私の大事な初期作品だ。

 コンパクトミラーの形をしていて、留め具に金の貝殻のレリーフをあしらってある。

 ケビンは乱暴に私の手を振り払い、舌打ちして店を出て行った。

 レモンシトラスのランタン灯りが、乱暴に遠ざかって行く。

「マダム リュミエラ、申し訳ありませんでした……」

 先週から店に立ってくれているルフレが、ため息をつきながら腰を折った。

「いいのよ、ルフレ。あの方は常連なの」

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