第108話 エピローグ(4)

「アーラのせいじゃないよ。僕が神さまに望んで、それを神様と大樹様リン・カ・ネーションが受け入れてくれたんだから。きっと、僕が天使になるためには、アーラと庭園ガーデンで過ごす日々も必要なことだったんだ。それが分かっていたから、大樹様リン・カ・ネーションは自身のお力を使ってでもアーラを庭園に迎えてくれたんだよ」

「そうかしら?」

「うん。僕はそう思ってる。僕が守護天使になると決めたのは、きみのそばを離れたくないからだもの。そう思えるのは、やっぱり庭園ガーデンでの日々があったからだからさ。アーラが庭園にいたことは、必然だったんだと思う。きみが気に病むことは何もないさ」

「……そうだといいな。私も、フリューゲルといつも一緒にいられて楽しかったもの。そうね。もう気にするのは止めにするわ。私をここまで育んでくれた大樹様リン・カ・ネーションにも、司祭様にも失礼な気がするし」


 私達は互いに笑みを交わす。こうして話していることさえ、近いうちに忘れてしまうのだと思うと、とても寂しい。それでも、私は塞ぎこんだりしたくない。今しかできないフリューゲルとの交流を、心の底から楽しみたい。アーラという存在が消えてしまっても、フリューゲルは絶対に覚えていてくれる。彼の中に残るアーラが寂しいものにならないように。悔いの遺した顔を彼の中に刻みつけないように。私はいつだって笑っていたい。


 心配事をまた一つ吹っ切り口元を緩めていると、心配そうにフリューゲルが顔を覗き込んできた。


大樹様リン・カ・ネーションのことは、心配しなくても大丈夫。僕はまだきみの守護天使以外のお役目は頂いていないけれど、司祭様にお願いをして、これからは司祭様とともに僕も大樹様リン・カ・ネーションのお世話をさせてい頂くことにしたから。といっても、基本的には大樹様リン・カ・ネーションはご自身のお力で大きくおなりだから、僕たちは見守ることくらいしかできないみたいだけどね。でも、もし万が一、今回みたいに、大樹様リン・カ・ネーションに何かあった時は、僕が全力でお世話することを約束するよ」


 フリューゲルの言葉に安堵し頷くと、彼は、「だから」と言葉をつなげる。


「僕のためにも、学びをやめるなんて言わないでよ」

「……どういうこと?」

「僕は、きみのそばでもっと人の気持ちも植物の気持ちも知りたいんだ。アーラだって、本当はもう園芸の虜なんだろ? 知ってるよ。きみがいつも泥だらけになりながらも、常に口元が緩んでいること」


 そう言って、フリューゲルはいたずらそうな笑みを浮かべた。やっぱり双子の片割れは、私のことをよく分かっている。

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