第107話 エピローグ(3)

 私が納得していると、フリューゲルはこっそりと庭園ガーデンの秘密を教えてくれた。


「天使になるためには、感情を表に出さないNoelたちが僕のように感情を学ぶことが必要みたい。そして、天使へと成長することができたら、庭園を離れて天使のお役目に付くんだ。初心者天使は僕のように、自身にゆかりのある者の守護天使になることが多いんだって」

「そうなんだ。だから、庭園にはNoelしかいなかったのね」


 フリューゲルの話になるほどと頷いた私は、あれと首を捻る。


「でも、フリューゲル。天使様になるための条件とかは、いくら聞いても司祭様は教えて下さらなかったのに、私に話してしまっても良かったの?」

「うん。庭園にいるNoelには自分で身につけることだから、言ってはいけないことになっているけど、アーラには話してもいいって許可を頂いてるから。……その、アーラはもう……」

「そっか。天使様になる可能性が無くて、いつか、天使様自体のことも忘れてしまう私ならってことね」


 フリューゲルの濁した言葉を、私は明確に口にした。そんな私に、フリューゲルは困ったように眉尻を下げながらふわりと微笑んだ。


 もう自分が白野つばさのココロノカケラであり、いつか消えてしまう存在であることは受け入れている。白野つばさとの融合を今では怖いとも寂しいとも思わない。だって、私は私でいればいいのだから。


 しかし、私という存在が消えてしまう前に、心残りはなるべく解消しておこうと思う。また新たなココロノカケラが発生してしまってもいけないので。


「ねぇ、フリューゲル。大樹様リン・カ・ネーションの様子はどう? 私、随分と見当違いをしていたようだけど、やっぱり、まだお弱りのまま?」


 私の心配顔にフリューゲルはニコリと笑い、ゆっくりと首を振る。


「心配いらないよ。大樹様リン・カ・ネーションはもう随分と力を取り戻されたようで、ゆっくりとだけど新しい蕾の成長も確認できているから」

「そう。なら、もうお世話をするための私の学びも必要ないのね」


 フリューゲルは小さく頷いた。


「これは司祭様の見解なんだけど、大樹様リン・カ・ネーションはアーラを庭園ガーデンに留めておくために力を使われていたのではないかって。アーラが巣立ったことで、お力が徐々に戻り始めているのだろうって仰っていたよ」

「……じゃあ、大樹様リン・カ・ネーションがお弱りになったのは、私のせいなのね……」


 フリューゲルに聞こえないように小さな声でぽつりとつぶやく。それでも双子の片割れはそんな私の声すらも逃さずに拾ってしまう。

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