第71話 秋の章(27)
青島くんはフリューゲルのことを知らない。それなのに、まるでフリューゲルが私のそばにいつもいることを知っているかのように、語りかけてくる。
涙で滲んだ視線の先に、唇を引き結び、眉間を顰めて必死に何かに耐えているようなフリューゲルの姿が映ったような気がして、ハッと息を呑んだ。
だけど、よくよく目を凝らせばそれは店のガラスに映った私自身だった。でも、それだけで、私はフリューゲルが哀しんでいる姿をありありと想像することができた。
フリューゲルには、こんな顔をさせたくない。
私は頭をフルフルと振ってから、手の甲で涙を拭う。
「嫌だ。哀しい思いはしてほしくない」
「だろ。きっと片割れも同じ気持ちだ。だって、仲のいい双子だったんだろ?」
コクリと頷くと、優しく語りかけてくれていた彼も、頷き返してくれる。
「哀しむのはこれでやめよう。片割れを覚えていなくても、片割れが隣にいなくても、これから白野は、二人分元気に笑っていろよ」
ニカリと笑いかけてくれる彼に、私はもう一度コクリと頷いてから、青島くんを真似てニカリと笑ってみた。
ここがどういう所か分からない。フリューゲルと私の繋がりも詳しくは分からない。でも、私とフリューゲルの間には、確かに繋がっている部分がある。そんな繋がりの強い彼を哀しませないためにも、私は私らしく笑っていよう。
「うん。それでこそ白野だ」
私の顔を見て、青島くんは大きく頷くと、すぐにイタズラっぽく笑って見せる。
「よし、じゃあ、さっさとこれ食べて帰るぞ。さっきの状態じゃ、どうせ母ちゃんに何も言わずに家を出てきたんだろ?」
「あっ……」
青島くんの指摘に、思わず声を上げた私を見て、彼はやっぱりと言いたげに呆れた顔をした。
どうしても家まで送ると言う彼の優しさに甘えて、家まで送ってもらう。
門扉の前で、話を聞いてくれたお礼を言って頭を下げると、青島くんは気にするなと笑ってくれた。それじゃあと、踵を返し帰りかけた青島くんは、最後に嬉しい言葉をくれる。
「あのさ、双子と一緒に過ごせるパラレルワールドがあったらいいな」
彼の言葉に、私はとびきりの笑顔で大きく頷き返す。それをチラリと確認した彼は、軽く手を上げて再び背を向けると、暗闇を駆けて行った。
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