第27話 夏の章(2)

 大樹ひろしげさんが、度々学校を訪れていることを知った私は、植物のことを直接教わりたくて、園芸部に入った。


 しかし、大樹ひろしげさんの来校は不定期で、私が一人で園芸作業をすることも少なくない。そんな時、私は、大体花壇の土いじりをしている。土を掘り起こしたり、肥料を撒いたり、草を抜いたり、日々、土や埃まみれの作業だ。


 本当は、すぐにでも樹木の手入れの仕方を教えてもらいたかったのだが、入部してすぐに、私の希望は却下された。「園芸初心者が、いきなり樹木の世話などできるわけがない」というのがその理由だった。


 早く知識を身につけたかった私は、必死に頼んでみたが、どうしても了承してもらえなかった。


 仕方がないので、大樹ひろしげさんがいる時には、樹木の剪定や伐採作業を手伝わせてもらうことにした。そして作業の合間には、植物に関するいろいろな知識を教えてもらっている。


 そうするうちに、私はとても無謀なことを言っていたのだということが分かってきた。


 確かに、大樹ひろしげさんの話を聞くたび、植物と向き合っていくことが、そんなに簡単なことではないと思わずにはいられない。


 枝の切り方一つで、その木を駄目にしてしまうことだってあるのだ。植物にとって、その時何をしてやらなければいけないのか、やわらかくて暖かい土が必要なのか、光を当てなければいけないのか、広い空間が欲しいのか、そういう植物の気持ちや声が分かるようにならなければ、ちゃんとした世話などできないのだということが、最近少しずつ分かり始めてきた。


 今の私では、庭園ガーデンで大樹のお世話をするなど、まだまだ遠く及ばない。まずは、基本を身につけなくてはいけない。


 そんな園芸初心者の私に割り当てられた作業が、花壇の世話、格好良く言えばガーデニング作業だ。


 校内のどこでも、好きに世話をして良いと言われたので、少しでも多くの技術を身につけられるよう、全ての花壇の世話をすることにした。


 しかし、校内全てとなると、作業は単純ではない。結果、日々土まみれになっている。


 それに加えて、最近は、毎日のように花壇が荒らされているのだ。夏休みに入るまでは、こんなことはなかった。


 夏休み初日、水やりのために学校を訪れると、前日に苗を植えたばかりの花壇が、見るも無残に掘り返されていた。幸い、苗は傷ついていなかったので、植え直すことができた。


 そんな苦境にも負けず、ちゃんと根付いたらしい苗たちは、今は緑の葉を元気に空に向けて伸ばしている。

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