第16話 このまま終わるのかと二人は後悔する

 佳奈の連絡先が通じなくなってから数週間が過ぎた。

 

 俺は結局、佳奈の元に行くことも、無理矢理に連絡を取り付けることもしなかった。なんとかして佳奈と話そうとパニックになり、佳奈の元へと今にも駆け出しそうになったときに、紗良からの『もうすぐ着くよ』の連絡でくじけてしまった。


 自分にはすでに彼女がいる。このまま佳奈が離れてしまったことを受け入れた方が良いのではないかと思った。


 誰かに話したい気持ちがあったが、もう慎也には話せない。情けないことに俺は喜美の優しさに甘えて全てを打ち明けた。


 結果、俺が佳奈になにを伝えようと自分のエゴに過ぎないと喜美に言われてしまった。どうせ佳奈の気持ちに応えることができないのならこのまま黙って全てを受け入れるべきだと。


 モヤモヤとした気持ちのまま、俺は紗良との付き合いを優先して二人で過ごした。しかし、気持ちが晴れることはない。




 佳奈視点



 古都と体を重ねた日、私は考えていた。確かになし崩しに古都との距離を詰めたことで、関係は結ばれつつあると思った。だけど、古都が本当に好きな相手が別にいることがなかったことのように消えるとは思えなかった。


 それで?このあとはどうすればいい?そんな風に考えているときに連絡をしてきたのが慎也だった。東京の居酒屋に勤める古都の友人。私の中学時代の同級生でもある人だ。親交はなかったが古都に連れられて居酒屋に会いに行ったときに連絡先を交換していた。


 帰郷するから会おうと言われて、場合によっては古都のことを相談できるかもなんて期待もあったから、二つ返事で会うことに了承した。


「古都は彼女ができたよ。」


 そう言われた。ずんっと体が重くなり青ざめるような感覚があった。その彼女というのは会社で気になっていると古都が言っていた女性のことだろうと思った。


 慎也は言った。古都のことをこれ以上想うのは私のためにならないって。確かにそう思うが、かといってでは諦めますと言えるはずがない。


 慎也に提案された。もしも古都にとって私が本当に大切な存在なら、失なって初めて身に染みるだろう。だから一度突き放してみろと。


 良い案かも知れない。だって仮に今古都がその彼女と付き合わずに私を選んでいたとしても、古都の心の中から彼女への思いは消えていなかっただろうし、それこそ私の懸念だった。


 古都になんの言い訳もさせずに、こちらから一方的に連絡手段を絶つことで、私を失うことが怖ければ会いに来るのではないか。もし会いに来なければその時は私も諦めようと。一か八かの賭に出た。


 正直、連絡手段を絶って苦しいのは自分だった。しかしなぜか毎日のように慎也は古都の代わりかのように連絡をしてくれるようになったので、私は衝動的に自分から古都に連絡してしまうことを踏み留まれた。


 数週間が経った頃、言われなくても気づいたのは慎也が私に好意を抱いていることだった。毎日連絡をくれる。次はいつ遊ぼうかと向こうから言ってくれる。これが古都ならどんなによかったかとひどいことを考えてしまうが、辛い今は慎也から向けられる好意が私の唯一の癒やしになっていた。


 数日たったが、まだ古都はここに会いに来てはくれない。このまま古都は彼女と付き合い、私のことは終わりにするつもりだろうか。そう考えると、自分のしたことがひどい間違いのように思えて気持ちが病んだ。


 いっそのこと、私から会いに行って、「お願いだから私を選んで」と泣いて縋ろうかと思い始めていた。





「会いたい。会いたい会いたい、会いたい。」

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