第15話 行動の遅い男・行動の早い男

 紗良が帰ったあと、いよいよ佳奈に連絡をしようとした俺は、目の前が暗くなるような事態になっていることに気づく。


 佳奈がチャットアプリから退出していた。【Unknown】


「嘘だろ・・・なんでだよ・・・?」


 携帯電話の番号に何度かけてみても、「プープープー」と話し中になる。これは着信拒否なのではと嫌でも思った。思い当たると言えば、土曜のメッセージを既読にしてそのまま日曜の夜まで返事をしてないことだけ。だからって、連絡を遮断するまでするだろうか・・・。


 気になるが、誰かに確認を取ることなどできない。明日も仕事を控えているため、携帯電話にショートメッセージだけ送っておくことにした。それがこの時思い当たる唯一のできる事だった。


『なにかあったのか。心配だから連絡だけください。』


 このメッセージに返信が来ることだけを期待して、この日は就寝した。



 翌日。


 先輩である青木とともに、入社して初めての出張へと出かけた。俺は新人だから、先輩に言われるまま後ろで補佐をしなくてはいけない。とてもじゃないが、私生活の悩みに時間をかけることはできなかった。


 夜、先輩と食事をしながら、酒を飲みながら、ビジネスホテルのベッドに横たわりながらと、佳奈からの返信を待つが、やはりこなかった。もう一度、『連絡が遅くなったこと、ごめん。連絡ください。』とショートメールを送った。


 そのまた翌日も同じだ。返信は来ない。


 佳奈は気丈に振る舞っていたが、もし本当は辛かったとして俺が返信を遅らせたことが佳奈にとって諦めるきっかけになってしまったのだろうか・・・。


 もし、このまま連絡が途絶えたままなら?そう考えるとただ怖かった。だとしたら、次の休みに佳奈の家まで行って・・・。それで、連絡しなかったことを謝って、、、いや、そこまでは良い。そのあとに俺は佳奈と付き合えないと言うのか?


 なにをどう考えても詰んでいる。。。


 旅行中に同伴者である青木と行動を共にしていること、慣れない仕事を見よう見まねでしていることが重なって、どうにも良い考えが浮かばないまま時間だけが過ぎていった。頭の中は迷いで埋め尽くされていたが、恋人である紗良との連絡だけは滞ってはいけない気がして、それだけはなんとかこなした。


 2泊の出張を終えて、俺は夕方には戻れる予定だったか、会社に戻らず直帰で良いと言われたので、紗良に会うまでに少し猶予ができた。この間に、佳奈となんとか連絡を取らねばなるまいと、帰宅してすぐに実家に連絡をした。佳奈の家とは家族も親交がある。佳奈の家の電話番号を聞いて連絡するしかないと思った。電話番号をメモして実家との通話を切り上げると、喜美ちゃんからのメッセージに気づいた。開いてみると、


『慎也さんが地元に帰ってるの知ってますか?』


 知らない。ドキッとした。なぜなら、俺が早くけじめをつけないなら慎也が佳奈に全てを話すと言っていたのを思いだしたからだ。あれは本気だったのかも知れない・・・。


 慎也に電話するのに躊躇いはなかった。すぐに発信ボタンを押す。


 3、4、5コール目で通話になる。


慎也『おう。どうした?』


古都『どうしたって、、お前、佳奈と会ったのか?』


慎也『ああ、喜美から聞いたのか。』


古都『佳奈と連絡が取れない。お前なにかしたのか?』


慎也『ああ。こっち帰ってきてよ、すぐ連絡したんだ。それで会ったらさ、お前が全然連絡つかないって聞いて、全部話したよ。』


古都『なにしてんだよ!お前には関係ねーじゃねーか!』


慎也『別に恨まれたって構わないぜ?お前、休み中、彼女とイチャイチャしてたんだろ?だから佳奈のこと放置したんだよな?』


古都『放置してないっ!お前が余計なこと言わなければちゃんと連絡してた!』


慎也『でもお前、付き合えないって言うだけだったろ?安心しろよ。俺が全部話したから。あとのケアは俺がする。お前はもう連絡するな。』


古都『なにを言って・・・』


慎也『じゃーな。』


 一方的にぷつりと電話が切れた。


 あああっ、どうしようっ!佳奈っ!


 ぐるぐると目が回るような気持ちで頭を抱えた。会わないと・・・会って話さないと・・・。今からでも行こうか・・・明日は会社を休んででも・・・いや、もうすぐ紗良の仕事が終わる。会う約束が・・・


 



 なにを優先させれば良い・・・?













 

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