実家の裏庭にある祠を掃除したらモテ期が来た
葉っぱ
第1話 社会人1年目のGW
大学進学で田舎から東京へ出てきて4年と少し。
俺はそのまま帰郷せずに誰でも知っている有名企業に入社した。
神代 古都(かみしろ こと)が俺の名前。
新入社員だし、印象良く爽やかに見えるようにと、髪型は短めに前髪は横に流して清潔感重視。大学ではヒューマンコミュニケーションを選択し、そつなく対人関係が築ける程度には明るく物腰の柔らかいイメージなるように自分なりに努力したほうだ。
有名企業といえど、社員数は多いわけで、これから長い道のりをコツコツと昇進していかなければ給料も上がらない。大学2年で付き合っていた彼女とは別れ、就職活動とバイトに明け暮れた俺はそのまま独り身のまま日常をこなしていた。やっと就職もしたことだし、そろそろ恋愛のほうもしていきたいものだ。
「はぁ・・・やっと連休かぁ。仕事を覚えるより、なんていうか、、人間関係につかれたなぁ。」
5月の連休初日に、実家に帰省する電車の中で息をついた。
上司、先輩、女性陣の無言のカースト制度。取引先の横柄な態度。
「社会人へのあこがれはこうしてあっけなく現実にうちのめされるのだな。」
しかし、そんな俺にも癒やしはあるのだ。
短大を卒業して、俺より2年先に入社していた宝生 紗良さん。一応先輩にはなるけど同い年で、部署は違うけど良く会話をする。
業務連絡で俺は良く彼女のデスクに行く。すみませんと静かに話しかけると、彼女は大きな目を開いてくるっとこっちを向く。口はきゅっと結んで口角を上げて、話すことが嬉しいような態度に感じられてそれが嬉しいんだ。
「お疲れ様です。それ今日の分ですか? 軽くチェックしますね。」
そう言って彼女は長い髪を軽く耳にかける動作をするのがいつものこと。
「んふふ、神代君って字が綺麗なんだよね。見やすくて助かるな。」
そんな風に、決まっていつも一言褒めてくれるから、俺はちょっと良い感じなんじゃないかななんて勘違いをしてしまうのだけど、でも知ってるんだ。飲み会で同じ部署の先輩たちが言っていた。
「宝生さんに告白したやつが、恋人がいるからって断られたんだってさ。」
「そりゃあのくらい可愛ければ彼氏いてもおかしくないよな。」
だから俺は勘違いしない。個人的なチャットアプリも向こうから交換して欲しいと言われて、男性社員の中で俺だけは仕事帰りに彼女と一緒に食事に出かけたりもしているけれど、きっと同い年だからこその気軽さがあるのだろうと。
ああ、でも。あの子と付き合えたらいいのにな。
あの子と付き合ったら、、という妄想を楽しみながら電車に揺られて半分寝ているか寝ていないかくらいの時間を楽しむのだった。
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実家に着くと、家族に迎えられて、俺は近況を話したりしながら久しぶりに休息を楽しんだ。夕飯前に、祖父が所有する裏山で育てている野菜や山菜を採りに行くことにした。軽い散歩にはちょうど良い。
ジャージに着替えて、水のペットボトルとタオルを一枚首にかけてでかけた。
運動不足だからね。ちょうど良い。
そんな気分もあってか、こどもの頃から慣れ親しんだ裏山だけど、丁寧に散策してみることにした。そういえば足を踏み入れたことがなかったなと思う場所に入ってはキョロキョロとあたりを見渡して自然を楽しんだ。
そこで・・・
「あれ?こんなのあったっけ?」
見つけたのは小さな祠。雑草の茂ったところをちょっと分けて入ったところにあったんだ。
探そうと思わなければ探せないよな。じいちゃんばあちゃんも知っていても忘れちゃってるんじゃないだろうか? それにしても古くてボロボロすぎる。
俺は次に見つけやすいようにあたりの雑草を抜いて祠までの道を作り、持っていた水とタオルで簡単に拭き掃除をしたのだった。
パンパンっ!
「家族みんなが健康でいられますように。東京での暮らしが楽しくできますように。」
手を叩いて、そう言葉にすると、俺は山菜採りをして家に戻るのだった。
家に戻り、久しぶりの母が作る夕飯を食べ終わると、俺は仲の良い友人にでも連絡して飲みにでも出かけようと思った。裕太にしようか、それとも健二にしようかと自分の気分を探りながらスマホを開くと、そこには幼なじみの佳奈からのメッセージが。
え、ちょー久しぶりなんだが。連絡するようなことなんてずっとなかったのに。
佳奈とは家が近所でこどもの頃から遊んでいたけれど、学校は中学までで高校は別。自然に会う機会も少なくなり、特別疎遠になったと思うわけではないが気がついたら話すこともなくなっていた。
メッセージを開いてみると、
「久しぶり。連休ってこっちに帰ってきてないの?いるなら会おうよ。」
一体どういう風の吹き回しなんだろう?
うん、でもせっかくだし。会いたいな。
俺は「今日帰ってきたよ。これから居酒屋でも行かないか?」と誘った。
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2時間後、俺は佳奈と待ち合わせた居酒屋にいた。
「あ、いたいた。ごめん待たせちゃって。て言うか久しぶり!」
佳奈がちょっと遅れてそう言いながら近寄ってきた。
大人っぽい紺のワンピースに、薄い白のカーディガンを着た佳奈は、ふんわりとした優しそうな顔をした美人になっていた。見た瞬間にドキッと心臓が軽く跳ねるのを感じた。
「おう、久しぶりだな。て言うか、佳奈綺麗になったな。知らない人みたいでびっくりしたよ。」
別に素直な気持ちを隠す相手ではない。正直に伝えると、
「え~なになに?嬉しいこと言うじゃん。ありがと。」
「ずっとなにしてるかなって思ってたから、古都に会いたかったんだ。元気にしてた?」
佳奈は頬を染めて満面の笑みで座りながらそう言った。
「会いたいとか思ってくれてたんだ?でもそうだよな。俺たちこどもの頃あんなに仲良かったのにしばらく話してなかったし。」
「そうだよ~。私はずっと、また仲良くなりたいって思ってたよ。そしたら古都は東京行っちゃうしさ。ささ、飲みながらじっくり話聞かせてよね!」
あ、なんか俺、最近で一番楽しいかも今。
何年も話してなかったけど、佳奈とならこうして昔のまま話せるんだな。
そうしてしばらく、お互いの近況や友達のことを話ながら酒を楽しんだ。
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