第76話

 地下迷宮第75層。

 ずいぶん地下迷宮の下の階層までやってきた。

 ここまでの階層を進んできたならば、普通の冒険者たちは疲労していることだろう。

 普通は体力がなくなり、マジックポイントがなくなっていき、どうしよう、でもせっかくここまで来たのだから、それでも先へと進もうか。

 もう回復アイテムの数も減ってきたけど、それでも先へと進もうか。

 と、そんなことを考えながら、先へと進む冒険者たちのほうが多いのではないだろうか。

 だがオレたちは違った。

 オレは大魔法使いの職業、そして大賢者の職業を持っているため、なんの苦労もなく、レアアイテムを探しだし、レアアイテムを見つけ出し、そしてなんの苦労もなく出現したモンスターを倒した。

 一撃で出現したモンスターを倒していた。

 出現したオークLV60を討伐していた。

 オークLV60というのはかなり強いモンスターである。

 かなり強いモンスターのはずなのに、そのモンスターが嘘のようにオレには弱く感じられた。

 オレが強くなったのか。

 それとも敵が弱すぎるのか。

 あのグレアが、魔の森で敵モンスター相手に無双していたときのことを思い出す。

 あれを今度はオレがやっていたのだ。

 グレアは言った。

「サトウさん、すごいです。敵が一撃で消し炭になっています」

「いや、これではダメだ。敵をすべて一撃で倒すはずだったのに、敵が一体だけ生き残っちまった。オレはまだ弱いのかもしれない」

 みたいなことを言うオレ。

 とはいっても、生き残ったといったオークの身体は、すでに半分消し炭になっているため、そのオークは死んでいる。

 すでに息絶えている。

 そして紅蓮の炎のメンバーはといえば、そんなオレを見て、オレの発言を聞いて、あきれていた。

 ため息をついていた。

「はあ……あんたはなんなのよ、サトウ、あんたちょっと強くなりすぎ。あんたたち、強くなりすぎ。わたしA級の冒険者なのに、A級の冒険者に見えないじゃない。あんたたちがA級の冒険者みたいになってるじゃない」

 というエルマ。

「お前ら、全部一人で倒すんじゃねえよ。オレたちの出番くらいよこせっ」

 というのはアレク。

「まあ……強い仲間がいることは悪いことではないだろ」

 やれやれという顔をして、エレンは首を振って、あきれた顔をしている。

「はあ……君たち、手加減を知らないの?」

 サックは苦笑い。

 だがグレアはといえば、オレが強ければ強いほど嬉しいらしい。

 オレが強くなればなるほど嬉しいらしい。

 まるで自分が活躍しているような、むしろ自分が活躍しているときよりも嬉しいような、そんな顔をしているグレア。

「サトウさん、サトウさんはすっごく強いですっ。世界一強いですっ」

「ははは。そんなにオレは強くないよっ。世界一強いのはグレアのほうだろっ」

「いいえっ、世界一強いのはサトウさんです」

「いいやグレアだね。世界一強いのは。オレはまだ世界で十番目ぐらいだろう」

「いいえ、世界一強いのはサトウさんですよ」

「あんたたち、そんな馬鹿なこと言ってないで、はやくいくわよっ」

 エルマはやれやれといいながら、言った。

 だからオレはエルマに言った。

「なんだよ。エルマ、お前もしかして、自分が世界一強いっていってほしかったのか? だったらいってやらないこともないが。エルマは世界一強いぞ」

 とオレが言ったら、エルマはちょっと嬉しそうにしながら、言った。

「いや、そういう意味じゃないからね。いつまでその会話を続けるつもりなのかしら、って意味だからね」

 というエルマ。

 と、オークがいたようである。


 オークLV60

 オークLV62

 オークLV64

 オークLV66


 オークLV60が四体いる。

「なんつーか、地下迷宮第75層の敵も弱いな。地下迷宮第75層の敵はこんなもんなのか? オレはもっと強い敵と戦いたんだが」

 というオレ。

「やっちゃってください、サトウさん」

 というグレア。

 オレは大魔法使いの姿になった。

 無詠唱で火の魔法を使う。

「ファイアーボール」

 オークLV60に火の魔法が向かっていく。

 その火の魔法はほかの魔物も巻き込むほどの巨大な攻撃魔法で。

 オークLV60が消し炭になった。

 オークLV62が消し炭になった。

 オークLV64が消し炭になった。

 オークLV66の身体が半分だけ消し炭になり、残り半分の身体は元の状態である。

「さあ。このまま地下迷宮の下層まで進むぞ」

 とオレは言った。

「はいっ」

 という返事をするのはグレアだった。

「大魔法使いかあ。その職業は聞いたことがあったけど、ここまで強いとは聞いていなかったわよ」

 と、エルマは言った。

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