第48話

 オレは冒険者ギルドの中に入り、いつものようにミリカさんの列に並ぶ。

 今日のミリカさんの列は相変わらず長い列ができているなあとそう思っていると、前のほうの列では何か言い争いをしているようだった。

 珍しいな。

 冒険者ギルドで言い争いだなんて……。

 一体なにがあったんだろうかと思っていると、このままだと前の列がなかなか進まないなあと心配していると、

「この大ガエルはオレたちが倒したモンスターだといっているじゃねえか。なんで信じてくれねえんだよ」

 といっている冒険者パーティーがいるようだ。

 見た目は普通の少年少女のパーティー。

 朝から何をやっているんだか。

 まあ大ガエルを討伐できるパーティーって、なかなかいないっていう話だったけれど。

 意外と強いパーティーというのは世の中にはいるらしい。

 異世界もひろいものだな、とそう関心してしまう。

「スライムスレイヤーさんのパーティーでは、大ガエルを討伐できるとはとても思えません」

 というミリカさん。

 ミリカさん一体何をやっているんだか。

 大ガエルを討伐したっていうんだから、その少年少女たちのいうように、スライムスレイヤーさんのいうように、大ガエルを討伐した報奨金を渡せばいいと思うんだけれど。

 ミリカさんはいった。

「そもそもスライムスレイヤーさんは、スライムしか討伐していないパーティーだったはずです。それがどうやって大ガエルを討伐できたのか、それを説明してください。説明できませんか? そうですよね。だってスライムスレイヤーさんたちの実力では大ガエルを討伐することは不可能ですから」

 というミリカさん。

 スライムスレイヤーの少年少女たちはいった。

「それはほら、いろいろあるだろ? オレたちスライムスレイヤーは今までも、そしてこれからも、ずっとスライムしか討伐しないつもりだったけど……スライムは経験値が少ないからさ、討伐しても報酬が少ないからさ……だから少しでもレベルの高いモンスターを討伐したんだよ。それを討伐できるわけがないとか、言いがかりはやめてほしいね」

 というスライムスレイヤーの冒険者たち。

 なんでも卑怯な手段を使って、冒険者ランクを上げようとしたり、報酬をもらおうとするのはダメな行為らしい。

 そうなんだ。

 オレは今まで普通にモンスターを討伐するということしか考えていなかったから。

 普通に日銭を稼ぐという方法しか考えていなかったから、そんな方法でランクを上げることもできるのかと、そんなことを思ってしまったが。

 なるほどなあ。

 そんな方法もあったのか。

 とはいえ、その方法はミリカさん曰く、冒険者ギルドの受付嬢曰く、ダメな方法。

 禁止されている方法ということらしいが。

「そんなことより、早く報酬をくれよ。大ガエルだから金貨三枚はもらえるはずだ」

「そうよね。言いがかりとかいっていないで、早くお金を出しなさいよ。こっちは命がけで大ガエルを討伐したんだから。ほんと言いがかりはやめてほしいわ。私たちスライムスレイヤーが、レベルを上げて、強いモンスターを討伐したの。それの何が悪いのよ」

 という少女。

 やたら細身の少女である。

 冒険者にしては細すぎるような気がするな。

 まるでモデルさんみたいだ。

 よくその身体で大ガエルなんて倒したものだ。

 冒険者には見えないし。

 これは確かにな。

 ミリカさんでなくても、だれでもこの冒険者たちには、大ガエルは倒せるわけはない。

 と、そう思われてしまってもしょうがない。

 だって彼らはB級のモンスターを倒すには身体が細すぎるし、B級のモンスターを倒すには筋肉が足りなすぎる。

 まあ、魔法使いが筋肉むきむきである必要はないけどさ。

 なんだかあまりにも時間がかかりすぎているので、ちょっと声をかけてこようかと思った。

 このままだとクエストやるのに一時間以上という時間をとられるのは嫌だ。

 そんなのは勘弁してほしい。

 時間は有限なのだ。

「お前ら、その辺にしておけよ。スライムスレイヤーならスライムだけ討伐しておけばいいだろうが。雑魚の冒険者のくせして、意地を張る必要はねえだろうが」

 とオレはスライムスレイヤーにいった。

 このスライムスレイヤー、なんだかやたら細身の冒険者である

 冒険者というよりは、村人が冒険者をしている、といったほうがいいのかもしれない。

「あ? なんだよ。おっさん。調子乗ってると、ぶっ飛ばしちまうぞ」

 というスライムスレイヤーのリーダーらしき少年。

 なんだかむかっとしてきた。

 だがここは大人として激怒するわけにはいかないだろう。

 調子乗っていると言われても、耐えねばなるまい。

「は? なにこのおっさん。リュウ、もうこのおっさんをやっちゃいなよ。リュウの実力を見せつけちゃいなよ。スライムをひたすらに討伐し続けてきた、リュウの実力を見せつけちゃいなよ。このおっさんに。この調子のったいきったおっさんに」

 という少女。

「あ? おっさん、やっちゃうよ? あんまり調子にのってると、やっちゃうよ? ぼこぼこにしちゃうよ? いいの? 本当にいいの? おっさん、どうせGランクの駆け出しの冒険者なんでしょう?」

 というリュウとかいうスライムスレイヤーの少年。

 いいのだろうか?

 本当にやってしまっていいのだろうか?

 あんまり冒険者ギルドでもめ事を起こすなんてしたくはなかったが、本当にやってしまっていいのだろうか?

 いいよな。

 やってしまっても構わないよな。

 調子に乗っているといわれて、ちょっと力の差を見せつけてやるかと思っていたら、

「その辺にしておけ」

 と、おっさんに声をかけられた。

 その声をかけてきたおっさんは白髪の男だった。

 白髪の男はいった。

「おい。そこのがき。お前、目の前にいる男が、だれだかわかっているか? そいつはサトウだ。最近期待のルーキーとか呼ばれている男サトウだ。そこにいる男はな」

 という白髪の男。

「このおっさんが……ルーキー……だと?」

「期待のルーキーだなんて呼ばれているから……もっと若い……少年だと思っていたのに……でもよく見えると……かっこいいかも。強そうに見えるかもっ」

 とか今更言うスライムスレイヤーの少女。

 期待のルーキーがおっさんだと知ると、目の前にいるおっさんだと知ると、さっきまで罵倒してきた少女の評価は変わっていた。

 なんでだよ。

 なんで紅蓮の炎のメンバーだとわかった瞬間に、評価が上がるんだよっ。

「こいつが……紅蓮の炎のメンバーだと!?」

 というリュウ。

 スライムスレイヤーのメンバー、リュウとその仲間は、オレのことを見ると、突然ぶるぶると震えだした。

 やばいやつににらまれてしまったと、震えながら、下を見る。

 オレは紅蓮の炎のメンバーであったとしても、ただのおっさんだとしても、別に変わりないだろうに。

「う、嘘だ! こんなおっさんが期待のルーキーなわけがない。オレが知っている、オレがイメージしているサトウさんは……こんなおっさんじゃない。もっとかっこいい人だ!!!」

 というリュウ。

 なんかすまなかったな。

 悪かったな。

 こんなおっさんで。

 そしてかっこよくないおっさんで、なんか悪かったな。

 白髪の男はいった。

「スライムスレイヤーにB級のモンスターは倒せない。どうせ誰かが討伐したモンスターを横取りしたんだろう」

 という白髪の男。

 スライムスレイヤーのリュウは困った顔をしている。

 むしろ目の前にいるこのオレに完全にびびっているようだ。

「スライムスレイヤーのメンバーの方々、ちょっとギルドマスターを呼んでくるのでそこで待っていてください。これからあなたたちの処遇を決めますので」

 と、すっごい笑顔でいうミリカさん。

 おい。

 ミリカさんがマジで怒っているぞ。

 と、後ろの冒険者たちから恐れの声が聞こえてきた。

「え? ギルドマスター? それはちょっと困る」

 ミリカさんのその言葉に、凍り付くスライムスレイヤーのメンバーたち。

 スライムスレイヤーのリュウ。

「オレはA級の冒険者。ゾーイだ。よろしくなっ」

 という白髪の男。

 ゾーイとかいう白髪の男は右手をオレに向かって差し出してきた。

 お?

 握手ってことか。

 オレはゾーイから差し出された右手を握って、握手した。

「オレはC級の冒険者のサトウだ」

「お前がサトウか。なかなかいい目をしているな」

 ゾーイはなぜかふっと笑った。

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