第19話

 魔の森。

 そこは現実世界の森のイメージを、ちょっと暗い感じにした場所である。

 辺りはまだ昼前だというのに、不気味さを感じるほどに薄暗い。

 カラスがぎゃあぎゃあと鳴き、バサバサと空を飛んで行った。

「なんだか薄気味悪い場所だな……」

 とはいえ、この魔の森は、オレがゲームでやったことのあるものが普通に置いてあった。

 それは赤い色をした宝箱である。

 異世界には宝箱なんてものがあるのか。

 まあ魔法と剣の世界なのだから、モンスターが出現することもあれば、宝箱があっても別におかしなことはないだろう。

 ぱかっと宝箱を開けてみる。

 宝箱の中に入っていたものは、ポーションだった。

 オレはアイテムボックスの中にポーションをしまう。

 ポーションか。

 どうせなら、ハイポーションとか、エリクサーがほしかったのだが、やはり魔の森の入り口付近には、そんなレアなアイテムは置いていないらしい。

 まあゲームだって、ダンジョンの入り口には大したアイテムは置いてはいないからな。

 まあこんなものだろうか。

 そう思いながら、オレは立ち上がると、魔の森の奥へと進むことにした。

 モンスターを討伐するとレベルが上がり、ダンジョンを探索すると、アイテムや武器が手に入る。

 なんだかダンジョン攻略は結構楽しいものだな。

 そんなふうに感じながら、魔の森を探索する。

 ダンジョンというのは危険だから、あまり深入りするなとミリカさんには言われていたけれど、このダンジョン探索の面白さを知ってしまうとそんな言葉を聞いてはいられない。

 上級の冒険者がなぜ自分の身を危険にさらしてまでダンジョンの奥に行くのかわかってしまった。

 そこには自分のレベルを上げる高レベルの敵がいるのももちろんだけれど、レアなアイテムがダンジョンの奥にあるんじゃないかと、ほかの冒険者にそのレアアイテムをとられるわけにはいかないということを考えて、ついダンジョンの奥に入ってしまうのだと。

 上級冒険者の気持ちがなんだかわかったところで、ダンジョンの奥から大量のモンスターがこちらに向かってくるのを感じた。

 モンスターの数が七体!?

 嘘だろ?

 オレは今までにこんなにも大量のモンスターと戦ったことがなかった。

 こんなにも大量のモンスターと一人で戦って大丈夫だろうか?

 やっぱり仲間探しておくべきだったか。

 そんなことを今頃になって思うが、モンスターは待ってはくれない。

 敵である人間のオレを倒そうと、勢いよく駆けてくる!

「くっ。こういうときに全体攻撃の魔法が使えたら……。単体攻撃しかできないオレに大量の敵はちときついか」

 だがそんなことを言っていても、敵の数は減りはしない。

 敵は自分たちの数が有利だと、ゴブリン七体はなんだかオレのことをあざ笑うかのような顔をしていた。

 ゴブリンLV4。

 ゴブリンLV5。

 ゴブリンLV6。

 ゴブリンLV6。

 ゴブリンLV6。

 ゴブリンLV7。

 ゴブリンLV8。

 おいおいおい。

 こんな大量のゴブリンと戦うことが初めてなのに、レベル8のゴブリンまで出現するのかよ。

 こりゃあ本格的に失敗したかもしれないな。

 ミリカさんの言葉通り、あまり無理してダンジョン奥までは来るべきではなかったのかもしれない。

 つうか、ちょっと奥まで来たからといって、こんな大量のモンスターと、高レベルのゴブリンが出るなんて聞いてないぞ。

「まあしゃあないな。やるしかないだろ。……スキル、まぶしい光っ」

 オレはスキルまぶしい光を発動した。

 オレの頭がきらーんと明るく光り輝く。

 ゴブリン七体はオレのまぶしい頭に目をくらまされているようだ。

 よし。

 今のうちにゴブリンの数を減らしておこう。

 倒すべき相手はゴブリンLV8。

 一番強い敵を倒すことで、敵の統率力を乱すのだ。

「ゴブウウウウウウウウウウウウウウウ」

 ゴブリンLV8もまた自分でオレを倒そうと考えていたのか、一直線にオレに向かってくる。

 ゴブリンLV8は高レベルのゴブリンだったからか、目をくらまされていても、それでも何とかオレに攻撃を食わせようと、その攻撃は確かにオレに向かってきていた。

 くそっ。

 このままだと攻撃が当たる!

 一閃。

 ゴブリンLV8の攻撃がギリギリ当たる前に、オレのこぶしがゴブリンLV8の顔面を捕らえていた。

 ゴブリンLV8は吹き飛んでいた。

 よし。

 仕留めた。

 確かにゴブリンLV8を倒した手ごたえがあった。

 ほかのモンスターはといえば、ほかのゴブリン六体はといえば、一番高レベルのゴブリンLV8が地面に倒れているのを見て、その動きを止めていた。

 この敵と戦うべきか、そんなことを考えているのかもしれない。

 相手の動きが止まっていることを考えれば、ここで相手のことを叩きのめしておくべきだろう。

 とはいえ、二度も三度もおなじことをしていては、いくら相手がゴブリンとはいえ、手が読まれてしまうだろう。

 今度は一番身近にいるゴブリンLV4を狙う。

 ただその場に突っ立っているゴブリンLV4に攻撃を当てることはたやすい。

 仲間が倒されたからか、ゴブリンたちは動揺しているようだから。

 がつん!

 ゴブリンLV4にオレのこぶしが突き刺さる。

 よし。

 二体目を倒した。

 残りは五体。

 まだ相手は動いていない。

 その場にただ立ちすくんでいるだけだ、もう一体は倒せる。

 そう思ったら、ゴブリンLV7が雄たけびを上げた。

「ゴブウウウウウウウウウウウウウウウ」

 と。

 その声に釣られるようにして、一斉にゴブリン五体が襲い掛かってくる。

 来るか。

 だがオレにはあるスキルがある。

 そのスキルがあれば、敵が大勢で襲い掛かってきても、その目をふさぐことができる。

「スキル、まぶしい光」

 ぴかっとまぶしい光が辺りを照らした。

 ゴブリン五体はあまりにもまぶしい光に、目を覆っていた。

 適当な攻撃など怖くはない。

 ゴブリンLV6、ゴブリンLV6、ゴブリンLV6、ゴブリンLV7を順番に一体ずつ確実に倒していく。

 そして最後に残ったのはゴブリンLV5。

 もう仲間が残っていないゴブリンLV5は、

「ゴブウウウウウウウウウウウウウウウ」

 という叫び声をあげて、捨て身で襲い掛かってくる。

 だが捨て身で襲い掛かってきても、ゴブリンLV8よりは格下の相手にしか見えない。

 残念ながらこの勝負はもう始まる前から終っている。

 オレはゴブリンLV5の顔面に自分の右手のこぶしを振り下ろした。

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