第2話 恋の鉛筆 涙の一本背負い 「恋と柔道家」
朝稽古の後、記録帳に反省を書こうとして鉛筆を床に落とした。
畳の上に落ちた鉛筆を拾い上げようとする私に祖父がちょっかいを出す。
前傾した体の足を引っかけて前へ崩そうとした。
「おじいちゃん、やめて。危ないでしょ」
祖父がニヤリと笑う。
「フン、油断をするな。体が触れた瞬間に反応して投げ飛ばすくらいでないと。お前は道場の跡継ぎなんだからしっかりしなさい」
「誰もこの道場の跡を継ぐなんて言ってないわよ」
私は急いで支度をして道場を飛び出した。遅刻をしそうだ。
教室へ入ると、澤村くんがまず眼に入る。相変わらず爽やかで素敵だ。
「おはよう」
「うん、おはよう」
この会話だけでドキドキする。でも澤村くんは女子みんなのアイドルなのだ。私のようなガサツな女の子なんか問題外だろう。自然とため息が出る。
「ハア」
「どうした?元気ないじゃん」
隣のフーちゃんがいつもの笑顔で声を掛けてくれる。私も笑顔を作って返事を返す。
「全然。いつもの通りだよ」
「ふーん、澤村くんを見てたんじゃないの?」
私はフーちゃんを睨んで、口に人差し指を当てる。
「私のような柔道家の跡継ぎじゃ、男の子は寄ってこないわ」
「そうかなあ。澤村くん、しっかりした強い女子が好きって言ってたから脈ありそうな気がするけどな」
「…ハア、からかわないでよ」
もう一度ため息をつきながら一時限目の準備をする手から鉛筆がこぼれ落ちた。
「あっ」
鉛筆は澤村くんの席近くまでコロコロと転がった。何だか恥ずかしくてそっと拾いに行く。
同時に澤村くんの手が鉛筆に伸びてきた。私の手と澤村くんの手がフッと触れた。
手と手が触れた瞬間、私はグッと体を澤村くんの腰の下に潜らせ、手首と襟元をギュッとつかんで跳ね上げた。見事に澤村くんの体が宙に浮き、私は澤村くんを一本背負いで投げ飛ばしていた。
散乱する机と椅子、騒然とする教室、仰向けに倒れて呻く澤村くん、青い顔で立ちすくす私。
「…やってもうた」
澤村くんが呻きながら、やっと立ち上がる。教室中の非難の眼が私に集まっていた。
鼻血を出した澤村くんが私を見る。…ああ、私の恋はこれで終了だ。
「…す、すごい」
なぜか澤村くんが眼を潤ませ熱っぽい視線を私に向ける。
「…好きだ」
ええっ!? 恋の受け身は取れなかった。
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