第12話 【高難易度】恋バナ

   *由奈由*


「あの、水無月さんに質問? 相談? があるんだけれど……」


 気がつくと、私はそう切り出していた。

 水無月さんはキャベツを掴む箸を止めて、私を真っ直ぐに見つめ、目を丸くしている。


 今までろくに会話のキャッチボールもできなかったやつが、何を急に言い出したのか、と驚いているのかもしれない。

 いや、短い間だが、彼女はそんなことを考えそうなタイプには思えないし。他に相談できる人も見当たらないし。


「何かなっ?」


 案の定、水無月さんはからっとした表情で微笑んでくれた。どこか、嬉しそうな様子すらある。私との話題がなさすぎて、彼女も困っていたのかもしれない。


「う、うん。実は昨日、水無月さんと別れた後ね……、公園で男の人に出会って」

「ふんふん」

「それで今日、また会うことになったの」


 ピキッと、水無月さんの顔が硬直する。


「こ、恋バナか……っ!」

「っ! い、いや、そんなんじゃないよ……! ただなんというか、その人この街に来たばかりらしくって、街を軽く案内したんだけど、そのお礼にご飯をって」

「……で、男の人なんでしょ?」

「う、うん」

「優しい?」

「う、うん」

「イケメン?」

「それは……、うん、ものすごく」

「やっぱ恋バナじゃんっ! 大丈夫大丈夫。恋バナね、ちゃんと予習してきたから。至って普通の女子高生なら難なくこなせるはず……」


 後半はブツブツと、自らに言い聞かせるような口調だった。なんだか誤った判断で誤った人物に相談を持ちかけてしまったような気がする。


「それでそれで? 今日会おうって言われて、何を困っているの?」

「う、うん、どんな話をしようかな、とか、どんな服装で行ったら良いかな……とか」

「なるほどなるほど」


 ふんふんと、水無月さんはうなづいて、しばらく考えるそぶりを見せる。

 何か閃いたのか、ぱあと顔を上げ、瞳を輝かせた。


「ねえ、その人とは、何時ごろに会うの?」

「え、と……19時だよ」

「ほう! 19時。じゃあ、放課後から少し時間があるよね。だったら、一緒に、服を買いに行かない?」

「え!」


 空っぽの放課後に、キリクさんとの晩御飯があるだけでも驚きなのに、水無月さんと買い物……?


「だめ、かな?」


 私の戸惑いを感じ取ったのか、勢いがしょぼしょぼと力なく枯れていく。


「だ、ダメじゃないよ」

「ほんと!」


 強弱の激しさに若干引きつつ、目の前の水無月さんを見つめる。ウキウキと嬉しそうだった。クレープでしょ、プリクラでしょ、とブツブツつぶやく声も聞こえる。

 その様子をみていたら、私も、なんだか楽しみになってきた。

 それほど親しくもない、友人とも呼べない、そんな話したばかりの女の子と、買い物に行く。違和感しかなかったイベントが、目の前で素直に喜んでいる彼女を見ていると、明るく色づいていくような気がした。

 誰かが、自分の存在を喜んでくれる。それは、とっても嬉しいことなのだ。

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