第7話 探し人

   *由奈由*


 自分の隣を、金髪の麗人が歩いている。

 そのどこか現実離れした現状に、時々目眩すら感じる。

 なんだ、どうしてこうなった? 

 訳がわからないが、悪い気は全くしなかった。


「みて、あの人」

「わ、綺麗」


 そんな小声のやりとりが聞こえる。自分より遥かに可愛らしい女子高生の2人組が、私の隣を歩く人を見て、そう言うのだ。彼女たちの他にも、あらゆる人物が、男も女も、彼を明らかに意識している。

 なんとも言えない優越感に、自然と背筋が伸びてしまう。まるで、何者かにでもなったような気分だった。


「ボクはキリク。君は?」

「あ、えっと……早瀬、由奈由です」

「へえ、可愛い名前だね、ユナユ……。ちょっと呼びにくいから、ユナって呼んでも良い?」


 ふぁ。ファーストネーム⁉︎ あ、あだ名⁉︎

 あまりにフランクなキリクの調子に、とぎまぎしてしまう。これが欧米のカルチャーか……、本当だったんだ、と腑に落ちる。


「あ、はい、大丈夫です……」

「ごめん、嫌だった?」

「い、いえ! むしろ嬉しいです! ……下の名前で呼ばれたり、あだ名とか、全然ないから」


 ぽつりと言った由奈由の言葉に、キリクは小首を傾げた。長い金髪がサラサラと揺れる。そんな何気ない動作すら、絵になる男だった。


「そうなの? ユナは学生だよね? 学校の友達とかは?」

「すみません……、いないんです」


 他の誰かに言われたら、傷口を抉られたように感じたかもしれない。

 だが、先ほど出会ったばかりの、信じられないほど美しい人が相手なので、素直にそう答えられた。

 キリクは蒼い目を大きく見開くと、「そうなの? 意外だな」と言った。


「意外……ですかね? 私、何もないんです。部活とか趣味とか。勉強も普通だし。見た目もこんなんだし……」


 気づくと、ぽろぽろと話し始めていた。友達はおろか、両親もおらず一人暮らしだ。だから、学校でも家でも、誰とも話さずに過ごしてきた。溜め込んでいた鬱憤が溢れ出てしまった。


「って! ……すみません、初対面でこんな話……引きましたよね?」

「いいや。全然」


 キリクは爽やかな笑みを浮かべた。


「それと、ユナはとっても可愛いと思うよ」


 自分でもわかるほど、かあっと頬が赤くなる。お世辞だということは一瞬でわかった。それでも、こんなにカッコイイ人からそう言われて、嬉しくないわけがない。


「ええと、この街の案内でしたよね!」


 早口で捲し立てた。恥ずかしすぎて、無理やり話題を逸らしてしまったのだ。

 隣を歩くキリクのくすくすとした笑みが、まるで全てお見通しだよ、と言っているように聞こえて、ますます顔が赤くなる。


「えっと、駅前は割と賑やかで、ショッピングとかできます。あ、でも南口の方はちょっと寂れてて……。それから、そう、少し歩くと大きなショッピングモールがあって、休日はとても賑わうんです。それから、学習塾とか、公園とか」


 話していて、つくづく普通の街だなあと思う。取り立てて特徴のない、普通の、地方都市の街だ。


「あの」


 説明を区切り、気になっていたことを聞いてみることにした。


「キリクさんは……この街に、人探しに来たんですよね。どんな人なんですか?」

「うーん、そうだねぇ。実は、ボク自身も良く分からないんだ」

「そうなんですか?」

「でも、もう見つけたかもしれない」


 そう言ったキリクの横顔が不意に動き、私の顔を正面から見下ろした。結ばれた視線に、何か熱いものが込められているような気がして、ドキドキしてしまう。


「明日もまた会える?」


 意味深に告げられたキリクの言葉に、うっとり、うなづいた。

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