第2話 コーシカ先輩は仕事が好き
"遺失物捜索課"の捜査官の一人である獣人コーシカは優秀な職員である。
頭の上の大きなふさふさのお耳と、マズルの先にある小さなお鼻は、些細な物音や誰かの囁き声、隠された物事を見つけ出すのに大いに役に立ったし、何より、地道に街中を歩き回ったり、聞き込みで調査を行うことを苦にしない堅実で忍耐強い性格が、この仕事に向いていたのかも知れない。
「猫のお姉ちゃん、ありがとう!」
小さい少女が嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめて笑う。
それを見たコーシカも、嬉しそうに目を細めて笑顔を返す。
「もう二度と見つからないかと思った…」
奥さんからの贈り物だと話していた革の定期入れを、大事そうにぎゅっと握りしめた壮年の男性の目にうっすらと涙が浮かんでいるのを見て、本当に良かった…とほっと胸を撫でおろした。
他人から見たらちっぽけなものかも知れないけれど、本人にとっては何よりも大事に思っているもの、かけがえのないものと言うのは確かにあって、それを失ってしまったら自分の一部が抜け落ちてしまったような喪失感を覚えるだろう。
だからこそ、そんな誰かを助けることが出来る、誰かの大事な思い出や宝物を取り戻す手伝いが出来ると言うこの仕事を、コーシカは誇りに思っていた。
だから、この課に新たに入った新人の七草芽衣子がこの課に配属されたことを不服に思っていることは多少なりとも残念に思ったけれど、それでもきっと彼女も少しずつこの仕事のやりがいだったり、喜びみたいなものをわかってくれるだろうなんて呑気に考えていた。
それに、コーシカにとっては初めての後輩でもあったものだから、あれも教えてあげたい、これも教えてあげたい!なんて、ちょっとだけわくわくもしていたのだ。
新人指導なんて面倒くさいだけじゃない?さっさと仕事を覚えて貰わないと自分が大変だから教えるけど…なんて他部署の友人は呆れた顔で笑っていたりもしたのだけど。
それはある意味で、今までずっと一人っ子だったところに、待望の弟や妹が出来ると告げられたかのような、未知の好奇心と期待があったのだ。
だから、コーシカはまるで子供みたいなところがあって手間のかかる芽衣子をとても可愛がったし、そんなコーシカに芽衣子も良く懐くようになっていった。
…まぁ、芽衣子からコーシカへの感情は、彼女の人柄だけでなく、その獣人としての容姿特徴にメロメロにさせられていたという部分もなくはないのだが…。
その辺りにコーシカ自身気が付いていない訳ではないようだったが、それはそれとして"そういう"タイプの人間もそこそこいるしね くらいの感覚のようだ。
(この世界においての獣人フェチみたいなものは、肌の色は、白い方がいいとか黒い方が良いとか、髪の色は茶が良いとか黒が良いとか そのくらいの感覚なのである)
昼休みの執務室にて。
昼食を終えたのか、窓際の席で椅子に座って頬杖をついているコーシカ。
椅子の背もたれの脇から伸びている長い尻尾は、くるんとゆっくりとした動きで持ち上げられ、その後ぱたりと下りていく。
そして、床の方まで下りて行った尻尾は、再びゆっくりとくるりんと持ち上がって行き、再びぱたんとおりていく。
新米である芽衣子がこの課に配属されて一週間もした頃には、これがコーシカが何かをぼんやりと考えている時の仕草であることを芽衣子も理解していた。
普段はぱたぱたと世話しなく仕事をしているコーシカのこういう状態は珍しく、縁側で寝ている猫みたいだ!と、微笑ましくなってしまい思わず勝手に写真を撮って怒られたりもしたのだが…。
(先輩、何を考えてるんだろうなぁ…)
そんな風に、構って貰いたいけれど邪魔しちゃ悪いしなぁなんて考えあぐね、声をかけられないでいる芽衣子だったが、その状況を打破したのは、部屋に響くノックの音と、続く男性の声だった。
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