遺失物捜査課のしっぽさん

夜摘

第1話 芽衣子ちゃんは不服である

 ここは地球ではない星。日本ではない国。令和でも平成でも昭和でもない時代。

 文明と文化のレベルが現在の日本に良く似ていて、それでいて全く異なる進化を遂げた者たちが、人と共に当たり前に暮らしているという何処かの国。

 人よりも長命で、耳が長くとても美しい容姿を持つ"エルフ"と言われる種族だったり、子供程度の小柄な背丈に筋肉ががっちりした体つきを持つ"ドワーフ"族、犬や猫・鳥や魚等の人以外の生物の身体特徴を一部に持つ、いわゆる獣人系統の種族とされる"アニモス"などなど…。他にも多くの知的生命体が、同じ"ヒト"として暮らしている。

 この物語は、そんな世界で暮らす"しっぽさん"と呼ばれる獣人族の女の子・コーシカが、後輩ちゃんと共に世のため人のために一生懸命頑張る物語である。



「"遺失物捜査課"なんてカッコよく言ったって、結局のところ落とし物探し係じゃないですかー!」


 そう子犬のようにキャンキャン吠えているのは、ここ最近"遺失物捜索課"の一員となった新人だ。その名を七草芽衣子と言う。

 彼女は身体的にこれといった特徴はない普通の人間だが、彼女が吠える度、高く結ったポニーテールがゆらゆらと揺れる様子は、実際の子犬の尻尾のようにも見える。


「まぁまぁ…。困っている人を助ける仕事には変わりないんだし…」


 そしてそんな騒いでいる芽衣子を宥めているのは、小柄な獣人の女性。

口と鼻周りが前方に突出している、いわゆるマズルになっている顔と、腰の後ろでゆっくりと揺れる尻尾が特徴的だ。よくよく見れば掌に肉球もある。


「そう言いますけどー!私は婦人警官になって、バリッバリに悪いやつを捕まえるようなカッコいい仕事をしたかったんですよーー!」


「うんうん…。それじゃあ、これからバリバリ落とし物を探して、持ち主さんを喜ばせてあげようね…!」


「ふえーん!!そうじゃなくってー!!!」


 まるで子供のようにバタバタと両手を振り回す芽衣子を、優しく宥めている獣人の名前はコーシカ。160㎝程度の身長の芽衣子と比べるとその身長はかなり小さく、大人と子供のように見えるのに、そのポジションは完全に反対で、なんとなく間抜けな光景かも知れない。


「うう~…コーシカ先輩は鼻や耳が良い獣人だからこの課がぴったりかも知れませんけど、私は普通の人間なんですよ?全然向いてないですよぉ」


「あはは…。別に鼻や耳だけじゃどうにもならないことなんていくらでもあるし、芽衣子ちゃんには芽衣子ちゃんにしか出来ないこともあると思うな…」


 そんな風に微笑みながらコーシカはよしよしと芽衣子のほっぺを撫でる。むにむにとした柔らかい肉球の感触に、芽衣子の表情も思わず緩んでしまう。


「そ、それは反則ですよ、先輩…!!」

「うんうん、笑顔笑顔。ね、頑張ろ?」

「…ううう~…はぁい…」


 このような光景は、ここ最近この場所では珍しくないやりとりである。

ここ"遺失物捜索課"は、この世界における"警察"の中に設置されている一つの部署であるのだが、他の部署と比べるとあまりスポットが当たらない…と言うか、窓際…と言うか、まぁまぁ地味なポジションだと認識されている。

 その役割は、名前の通り、遺失物…落とし物・失くし物を探したり、逆に届けられたものの持ち主を探したりすることである。

 とは言え、本人から申請があったものに限ったとしてもそんなもの無数にあり過ぎるし、見つけるのは困難なのではないか?そんなところに人手を割くのは無駄では?などという意見も当然あっただろう。

 それでも、この課は何だかんだ無くなってはいない。

それは、この課の勤めている役割が、単純に落とし物探し・持ち主探しという一言では済ませられない仕事も果たしているからであることに他ならない。


「一日中落とし物を探すなんて地味な仕事やだーーー!!!!!!」


 今はまだ、こんな風に駄々をこねる子供のようにわめく新米・七草芽衣子もそれを後に知ることになる。 


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