第19話、称号が獲得されました!!!!

 ホビラット、改めヤクジシ達の集落は、集落というにはあまりにもお粗末なものだった。


 枝を蔦で編んで上から葉で覆っただけの小屋がポツポツとあるだけ。


「うーん、こうなるよねぇ」


 四方八方から遠巻きに突き付けられる槍に、俺はとりあえず害意は無いですよと両手を上げる。

 これがここの世界で通じるかは知らない。


「?」


 一向に攻撃が来る気配はない。


 はじめは臨戦態勢だったヤクジシだったが、俺の胸から生えたビガロに困惑し、どうしたら良いか分からずにオロオロとしていた。

 そんな時、雄叫びをあげてこちらへと突撃をして来るヤクジシが一人。


「オサ!!」


 ビガロの言うオサ、つまりは村長らしきヤクジシが泣きわめきながら槍を突きだし突進してきた。


「あぶねぇ!!」

「あぶねえ!!!」


 すんでで避けたおかげで、ビガロの死は免れた。

 このおっさんウサギ、ビガロが見えてないのか!?


「おお可哀想なビガロ……、この凶悪な悪魔め!ビガロを取り込み寄生するなど!!わしらがその程度で臆すと思うか!!!」

「オサなにすんだ!!!ケガするだろ!?」

「怪我じゃすまないと思うー」


 あ、これあれか。

 ビガロ死んで操られていると思っているパターンか。


 オサの雄叫びにより、ヤクジシ達が再び臨戦態勢になってしまった。

 今度はちゃんと攻撃してきそうだ。


「…………」


 これじゃあ埒あかんな。

 一旦ビガロを離してやろう。


 勿論無傷だし、むしろ余計な虫や汚れやらを食べてやったから体はフワフワのモコモコ。食べるのならそんなことをする理由はないし、これで無害を主張することにしよう。

 だが、解放する前にビガロが話し始めてしまった。


「ちがうんだ!おれはりんじの“きょうてい”をむすぶためにつれてきたんだ!」


 身振り手振りで話すから体の中がモゴモゴする。

 あまりにもシュールな光景だが、ビガロと疑ったままの長の会話が止まらない。


「お前が本当にビガロと言うのなら!!証明してみせよ!!!」

「おおいいぜ!!!まずは───」


 本人確認のために知りたくもない暴露話を至近距離で聞かされる羽目になり、ようやく本人確認と、正気確認をされたのち、俺の目的の話へと移行した。

 結構な暴露話を仲間の前でしたことになっていたが、躊躇無しだったな。

 思ったよりもこいつは鋼メンタルだったらしい。


 空気に徹する俺の代わりにビガロが説明をしている。

 その説明を一通り聞いた長がううむと唸った。

 信じられないという顔だったが、ビガロの真剣な顔で長が少しだけ信じてみることにしたらしい。


「とりあえずビガロを離してくれんか?」

「はいはーい」


 やっとビガロ装備を解除することが出来た。

 デュルンッ!と勢いよく飛び出したビガロは全身艶々サラサラ。

 まるでサロンに行った後になったみたいになっていて、ヤクジシ達がどよめいた。


 ふふふ、伊達に草刈りしていたわけじゃない。

 ありとあらゆる草を網羅し、洗浄やヘアケアに関しての草も豊富に蓄えてある。


 得意気にしていると、周りのヤクジシ達の視線が信望な眼差しに変わっているのに気が付いた。

 え、なに?


「こりゃすごい!おれらのあいだでも、こんなにみごとな“けつくろい”きじゅつをもったやつは、めったにいない!」

「ええー、そう?そーう?うへへテレるなぁ」

「おまえを“なかま”にうけいれてやると、オサがきょかした!」


 ヤクジシの仲間になった。

 ゲームならきっと称号の欄に何かしら書かれたことだろう。






 問題のヤクジシ達の元の住処は、ここから歩いて丸一日の距離にあるらしい。


 万が一に備えて食べ溜めをするために一旦案内役のビガロを連れて川へ向かう。


「さかなでも食べるのか?」

「魚も食べるけどー、もっと腹持ちが良いのを食べる」

「?」


 川原を歩いて、目的のものの前へとやってくる。

 ここはまだ自分が食い荒らしてないから、上質な岩がたくさん残っていた。


「んー、これくらいなら持つかなぁ?」


 いつもよりも大きな岩をスライムに戻って取り込んで、川に浸かってたくさんお水を収納しておいた。

 収納する際に軽く渦が出来て、魚も一緒に収納された。

 これ魚捕獲クエストで使えるな。

 だけど、ビガロにはビビられたらしく、帰る時にはちょっと距離を取られていた。

 悲しい。

 誤解を解かなくては。


「大丈夫だよ。基本魚以外の生き物は死体しか食べないから」

「ほんとだな?」

「ほんとほんと」


 多分、魚以外は死んでたはず…。

 色々食べすぎて覚えてないけど、多分そうだった気がする。


 準備が終わったので、みんなと合流して出発することになった。








 案内役のヤクジシはスキップするみたいに歩いていく。

 その後ろを俺は着いていく。

 ヤクジシ達はたまに近くの草を食べながら、色々な草や果物を摘んでいた。

 近くにいたヤクジシに訊ねると、ヒノコのいるところでは荒らされ過ぎてろくなものが残ってないんだと。


 じゃあ自分も摘んでいくか、ビガロ達のために。






 もくもくと歩き続けて丸一日。

 ようやく例のヤクジシ達の元の住みか、黄金の平原へと辿り着いた。


「へぇー、結構綺麗だね」

「じまんのフルサトだったんだ。あたりまえだ」


 地平線まで続く草原。

 穏やかで清々しい風が吹いてくる。

 だけど、妙に焦げ臭くて、変にアンバランスだった。


 一見すれば実に平和的だったけど、ビガロ達は怯えていた。

 ここの何処かに、例のヒノコがいる。


 見渡してみても敵らしい姿は見受けられない

 見受けられないが、“視線を感じる”。


「んー、居るっぽいんだけど…見えないね!」


 ここに来る道中にビガロ達にヒノコについて教えて貰った。

 ケナシ、つまりは人間ほどの体高のキツネらしい。

 尾は常に炎のように揺らめいていて、姿も揺らめいて消えるらしい。

 見えていてもそれは偽物で、突如として違うところから現れて仲間を拐っていくんだとか。


 ヤクジシ達の探知能力だって別に悪い訳じゃないのだけれど、見つけた瞬間にやられるので逃げるしかなかったといっていた。

 その時、ヤクジシ達が一斉に騒ぎだした。

 ビガロが俺の方を向く。


「!!! やばい!!!にげろ!!!」


 がしゅっ!と、腹に衝撃が走る。


「おっとぉ?」


 腹に食い付かれたキツネの姿が現れた。

 でっか。


「ぎゃあああ!!!!」


 ヤクジシが悲鳴をあげながら槍を突き付けるが、キツネは高く跳躍して回避。

 その時に食い付かれたお腹が大きく裂けて持っていかれてしまった。


「だ、だだだだだ大丈夫か!???」

「んー……」


 傷口がでろんとスライムに戻っている。

 痛くはない。

 違和感はあるけれど、それだけだ。


 キツネがクチャクチャ食べてたが、苦そうな顔して地面にピンクの物体を吐きだした。


 失礼だなこいつ。


「ウルルルルル…」


 唸りながらキツネが揺らめく尻尾を揺らし、その場で一回転すると消えてしまった。

 なるほど、こうやって消えるのか。


 ギャル化してからの初めての強敵に震える。

 こいつなら、良い実験台になってくれそうだ!

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