第15話 新人狩り????

 まずはこのハンドカッターを極めようと川原で特訓していると、突然川上付近の森から鳥が飛び立った。

 鳥が飛び立つのなんてなんてこと無いはずなのに、何となく俺は特訓を中止した。


 もしかして、近くに人がいたり??


「…………みられてないよね?」


 見られていたらヤバいんだけど。


 まさかまさかと思いながら、こっそりと川上へと様子を見に行く。

 大きな岩がゴロゴロしている川上はすごく足場が悪い。

 滑らないように足裏だけスライムに戻しながら接近すると、「うーん」と悩む声が聞こえた。


 岩影から覗くと、そこには水浴びをしている超絶美少女がいた。


 蒼が混ざった銀髪に、オレンジの、いや、黄金の瞳だった。

 あまりにも整いすぎて人間というよりもまるで人形のような──


「無いなぁ。残念」


 水から上がり始めたので慌てて隠れた。

 何か落としたのかな?


 そのまま着替えをしている音がして、もう一度覗くと美少女は森の中に去っていっていた。

 剣を持っていたってことは、あの人も冒険者なのかな。







 川で石を食いだめをしておいた。

 スライム体の体積はかなり増え、小型犬くらいには成長しまっていて、食欲がうなぎ登りしていた。

 このままでは川の石が無くなるのは時間の問題で、このままだと森の木を食べるしかなくなるが、そうするとまた体積が増えるわけで食欲が増す。

 なにこのループ。


 この食欲はいつまで続くのか

 もしや増加するのか?


「こりゃー、そろそろ移動しないと討伐依頼でるかも」


 討伐、石を食い荒らす化け物を仕留めよ、的な。

 スライムって、便利だけど不便だな。

 人じゃないけど人権が欲しい。








 街がお祭りのように賑わっていた。

 何があったのか。


「おお!良かった!」

「あ、昨日ぶりでーす」

「なかなか帰ってこないから心配していたんだ」


 そういえば、夜に忘れ物したって言ってたんだった。


「忘れ物は見つかったかい?」

「見つかりました!」


 嘘だけど。


「そりゃよかった」

「ところで、何のお祭りですか?これ」

「ああ。これはだな、勇者が近くにいて、もしかしたらここによるかもしれないから、って噂で集まってきた商人がたくさん屋台を立ち上げて祭りのようになっているんだよ。勇者だって人間だ。祭りがあるのなら、寄るかもしれないだろ?」

「ふーん。勇者か…」


 出来ることなら出会いたい無いところだ。


「せっかくだから見て回ったらどうだい?」

「そうしまーす」


 とは言いつつも、絶対に遭遇したくないので、見える範囲でご飯を買い漁ることにした。


「あ、スイーツある」


 せっかくだから甘いお菓子を買って食べた。

 もちろん味覚はONだ。

 砂糖は中毒性が高いな、超美味い。


 とはいえダラダラとしているわけにはいかないので、さっさと人混みに紛れてコソコソと裏路地へと向かう。

 危険なところは避けるべし。だ。


「こんなに人が集まっているんなら、逆にギルドは空いているのでは??」


 時間を潰すのには最適な場所だ。


 買った物をペロリと平らげ、俺はギルドへと足取り軽く向かうのであった。




 やはりというか、ギルドにはあまり人がいなかった。

 みんなもしかしたら来るかもしれない勇者の姿を見たくて大通りに行ってしまったようだ。


「職員も少ない気がする」


 休憩時間なのだろうか。

 しかし、人がいない分ゆっくり依頼を眺めるのも良い。


「んー……」


 文字が読めれば楽ではあるが、やはり勉強はした方が良さそうだ。

 さて、どうやって勉強するか。


 地道に記号を書き写して、1音1音確認していくしかないな。

 何故か言語は分かるからこれでいけるはず。


「おい!」


 突然呼び止められた。

 振り替えると不良みたいなのが5人、取り囲むように立っていた。

 かつあげか?

 その中のリーダーみたいなやつがニヤニヤしながら話し掛けてきた。


「お前新人だろ?稽古付けてやるから来いよ」


 わかった。

 新人狩りだこれ。


「えー、なんで?」

「新人の癖に先輩に口答えすんな!良いからこいっつーの!」


 強制らしい。

 仕方がないので大人しく付いていくことにした。


 ギルドを出て、裏方に回るように歩いていると、前方に知らない建物が見えてきた。

 あれが、訓練所か。


 ギルドと同じく無人の訓練所のとある一室へと着けば、リーダー男に貸し出し用の剣を投げて寄越された。

 剣はガラガラと音を立てて足元に転がった。


 五人ともニヤニヤしていて気色が悪い。


「へへ、お前冒険者になるってんだったら、少しは剣の心得はあるだろう?」


 そうなの?

 とはいってもなぁ、剣の握りかたも分からないし。


「えー、剣なんかそんなに握ったこと無いですよお」


 自分の剣で草刈りしかしたこと無い。


「なんだよ、自分の剣があるんならそれ使えよ」

「はははは。どーせ鎌だろ?」

「鉈かも知れないぜ?」

「うーん。まぁ、そんなに上等じゃないかもしれないですけどぉ」


 せっかくだし、草刈り意外でも使ってあげないと可哀想か。


「ちょっと待ってくださいね」


 物陰に回って剣を取り出す。

 仕舞っている間に錆びも細かく落として、気になる傷も直せないかと取り込んだ石を使ってモゴモゴしてたからピカピカだ。

 ちゃんと蔦も枝も簡単に切断できるから、笑われることはないはず。


「お待たせしましたー」


 戻ってくるなり、俺の剣を見てゲラゲラ笑う男ども。

 やれ、「うーわ、豚が真珠もって来やがった」だの。やれ「誰かに買ってもらったんだろ?」だの。


 拾ったんだわ。

 そして磨いたんだわ。


「怪我してもこっちは回復士がいるから安心しろよ

 欠損でも無い限りは治してやるよ」

「へぇー、頼もしいですねぇ」


 正直辞めてほしい。

 適当に受けて、頃合いを見て降参して帰ろう。


「じゃあ、いくぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る