第22話 土砂崩れ
「これは…酷いな」
「こんなにひどく崩れていては、確かに…荷馬車は通れませんね」
村を出てから歩くこと数時間。マリィと他愛もないお喋りをしながら山道を進んでいたのだが…横からの雪崩れてきたような土砂に道が埋め尽くされているところに出た。
とは言え、飽くまで土砂だ。その上を徒歩で歩くくらいならば造作もない。だが、足元が不安定なので、充分に注意する必要はあるだろう。
「マリィ、滑り落ちないように、ゆっくりと行こう…道から落ちると…急斜面なので戻ってくるのに苦労しそうだからな…とマリィ?」
マリィを振り返ると、何故か土砂崩れで埋もれた上の方をジッと見ていた。
「マリィ?山の上の方を見て、何かあったのか?」
「あ、いえ、その…ここ土砂崩れがあったんですよね?」
「ん?この道を埋めているのは土砂だろうから、それはそうだろうなぁ?」
「ですよね…でも、それにしてはこの崩れた上のところ…変じゃないですか?」
変?いや、何の変哲もない、木がキレイに生えた森林にしか見えないが…。キレイに木が生えた森林?
「あ…確かに。なんで土砂崩れを起こしたのに、すぐ上のところでも、きれいに木が生え揃っているんだ?」
「ですよね。普通、土砂崩れなんて起きたら木がなぎ倒されていますよね?」
土砂崩れは当たり前だが、地面の土がごっそりずり落ちる。そのため、生えている木々も土と一緒に流されていくはずだ。
「よくよく見るとこの土砂も、土ばかりで木の枝や石すら混じってないな」
「不自然ですよね?」
確かに土砂崩れにしては不自然だ。まるでどこからか運んできた土砂を積み上げただけにも見える。
「うーん。不気味だな…さっさとここを離れよう」
「そうですね。この土砂崩れをどうにかする必要はないですもんね」
そう言ってマリィは、手に持った槍の石突き側を地面に杖の様に突き立てた。すると、土に数センチ埋まったあたり、でガギ、と硬質なものに当たった音がした。
「あれぇ?何か硬いものに当たりましたね。やっぱり石も混じっているのでしょうか?」
「うーん、表面に見えていないだけか?…いや、それと不自然か?」
マリィが石突き側でさっと土をどかすと…その下に見えたのは金属製の…刃物だった。
「え?これ、斧?ですかね?」
「どれどれ」
石突きの周りを、
「旦那様…」
「これは…不味いな」
埋まっていたのは斧を持った人だった。しかも、さらに掘ればほかにも4人…計5人が埋まっていたのが確認できた。もちろん全員死んでいる。
「5人とも武装しているな。もしかして、消息が不明の馬車持ちが雇っていた傭兵か?」
「いいえ。それにしては装備が粗末です。というか旦那様、確かその商人は護衛をつけていない、と依頼してきた支部長が話していたような」
「そういえば、そんなこと言ってたな。となると、こいつらは一体誰なんだ?」
武装しているが、粗末。身分不明で、人相を見てみれば、明らかに柄が悪い。
「はい。山賊なんかの可能性が高いですね」
「やっぱりそうか」
しかし、見れば見るほどに貧相な身体付きだな。盗賊なんだから、それはそれは貧しくて栄養状態が悪い環境で生きてきたのだろう。
「小学生くらいの体格だな…」
「ショウガクセイ?」
「俺の世界では6歳から12歳の子供の…そうだな身分の名前だな」
俺はそれなりにガタイがいい。キチンとした訓練を受けた騎士や傭兵には勝てないだろうが、こんなおっさん顔の小学生になら負けはしないだろう。
「旦那様はかなり、こう、ものすごく背が高いというか…見たことないくらいの身長ですが、旦那様に限った話ではないのですね」
「俺は、自分のいた世界でも確かに背は高い方ではあったけど…そうだな、マリィより半分以上の男は身長が高いくらいの感じだから…唯一無二というほどではないな」
「えええ?そんなにですか…」
マリィの身長は、地球の日本で言うところの180センチくらいはある扱いだ。日本の女性で180はかなり珍しい部類になる。俺の身長に至っては恐らく2メートル近いイメージだろう。
それだけに、召喚されたときは戦いに向いた天恵を期待されたんだろうな。
「さて、話が反れたな。この埋まっていた盗賊についてどう思う?」
「盗賊たちが攻撃された手段には様々な可能性がありますが、何らかと争った跡…であることは確実でしょうね」
「ま、そうなるよなぁ」
盗賊たちが争った結果として、土砂に埋められたのはわかった。では、何と争ったのかというと特定するのは難しい。盗賊と争うとなれば、まずは馬車の持ち主が思いつく。
しかし、もしこの攻撃が、馬車の持ち主が放ったものだとすれば、馬車は盗賊を撃退して、向こう側に辿り着いているはずだ。
ところが、現実として馬車はたどり着いていない。だから、それでは辻褄が合わないのだ。
「盗賊でもない、馬車持ちでもないとなるとそれ以外の第三者?ということか?」
「つまり…モンスターですね」
「モンスターでこんなことができるやついるの?」
俺が地面に少し強めに足の裏を叩きつけると、砂ががばぼっと跳ねた。マリィは、土砂を見ながら、はぁ、と長いため息をついて、目を瞑った。
「考えたくないですことなんですけど、真っ先に思いつくのは、
「
「
わぁ…あ…泣きたくなっちゃった。
「あ、でも何というか、基本的に温厚かつ善良な性格の持ち主です。だから、仮に出現した情報があっても、刺激しないようにというお触れが出ておしまいです。こっちから害したりしなければ、攻撃なんか、まず仕掛けてこないんです。だから熊とかの方が、よっぽど危ないくらいです」
「つまり、その温厚で善良な
「その可能性はあると思います」
とすれば、商隊は盗賊と
「旦那様、これを見てください」
マリィが槍の石突きで示したのは、木製の輪っか状のもの。その輪っかの真ん中を通るような太い木の軸が明らかに途中で折れていた。
「これって、馬車の車輪か?」
「そうですね。やっぱり、ここで商隊は巻き込まれたみたいですね」
車輪が掘り出されたのは、道の端、崖の手前だ。崖とは言っても切り立った感じてはなく、急斜面くらいだ。慎重にいけば上り下りはぎりぎり可能だろう。
そう思い恐る恐る崖の下を覗き込んで見る。すると崖から崖下にまで生えた木々の隙間から何か白い、布状のものが見えた。
「旦那様?何かありましたか?」
「あれ…木陰に見えるの…」
「何かあります?」
「ほら。あっちあっち…右の方の木の下の隙間あたり…白い何か?」
俺が指を指し示す方を、しばらくジッと見ていたマリィが小さく、あっ、と声を上げた。
「本当ですね。あれは、馬車の幌?」
「だよなぁ」
やはり、そのようだ。ということは、恐らく土砂に押し出されて、崖下に落ちたのだろう。
「馬車を率いていた人は、崖下で動けなくなっているのでしょうか?」
「あるいは力尽きているか…」
そこまで責任感がある方ではないとは言え、見つけてしまったら見捨てるのは良心が咎める。
「ちょっと降りてみるか。最悪、荷物だけでも届けて上げないとな」
「私個人の感情としては、旦那様に危険なことはしないで欲しいですが…流石に状況的にはやむを得ないですよね」
こうして、俺たちは崖下に降りて、落ちた馬車の様子を見に行くことにした。
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