拾った金髪巨乳メイドが、酔った勢いで毎晩押し倒してきます

そこらへんのおじさん

出会いと旅の道連れ

第1話 オッサン・ミーツ・ガール

「異世界の勇者たちよ、よく来てくれた。私はこの国の王だ。楽にするが良い」


石造りの床、壁。そして、3階建てが入りそうな程の高い天井。その1番奥の立派な椅子に鎮座する、豪奢な服装の老境に差し掛かった男性が、厳かにそう言った。


「うおおお!勇者!異世界!きたー!」

「やべぇ!俺ら勇者なの!?」


王様の発言に反応して、隣りにいた大学生くらいの男子2人が、大興奮して声を上げる。一方で俺はというと、突然のことに理解が追いつかず、呆然と石で出来た床に座りこんでいた。


「異世界?勇者?なんじゃそれ?」


…そういえば、俺の勤め先の、小説編集部でそんな感じの書籍を扱っていたな。何て、役に立たないどうでもいい思考が俺の頭に浮かんだ。


「フィクション…じゃなかったのか」


俺の小さな呟きは、誰の耳に届かくこともなく、空に消えた。だからか、王様らしき人は、まるで俺を無視したかのように話を続ける。


「勇者たちよ、この珠を手に取るのだ」


王様の言葉に合わせて、横にいた完全武装の兵士たちが、野球ボールくらいの半透明の珠を持って近づいてきた。珠の数は、この場にいる人数分…男子大学生2人と、俺の3つ分あるようだ。


完全武装の兵士に迫られながら、俺は恐る恐るその珠を手に取る。すると手に取った珠は、手の中で、パリン、と小さな音を立てて弾けた。


「!?」


俺が驚きで取り落とすよりも早く、手の中に吸収されるように珠は消えていった。ほかの2人も同じようだ。


剣聖ソードマスター…」


大学生らしき男子の1人が呟くようにそう言った。その声を聞いたからか、王様が喜色を浮かべる。


剣聖ソードマスター…素晴らしい!こちらの方を特別室にお通ししろ!」

「はい。私が案内します」


王様の近くに控えていた、ミドルティーンの女性…身なりが彼女だけ良いので、恐らくこの国の姫様といったところだろう。その姫様らしき女性が、大学生の手を取り、広間からどこかへ、連れて行った。


「お二人も、頭に浮かんできた言葉がありませんか?」

魔導王スペルロード


もう1人の大学生が、まるで熱にうなされたかのようにそう呟くと、王様の笑顔はさらに大きなものになった。


「素晴らしい!素晴らしい!!こちらの方も特別室にお通しするんだ!」

「はい」


姫様の横に控えていた若い…やはりミドルティーンあたりの…めちゃくちゃ美人で、女官が、男子大学生の手を取り連れて行った。美人に手を取られた男子大学生の顔は、これでもかというくらい緩み切っている。


「して、そちらの方は?如何です?」


王様は、まだ残っている俺に対して、満面の笑みを浮かべて尋ねた。俺は仕方なし、と言った風に、頭に浮かんだ言葉を口にする。


「……リー」

「は?」

酒蔵ブルワリー

「ぶる?…はぁ…知らんな…ちっ…ハズレか…」


王様は、俺が口にした言葉の意味を理解できなかったようだ…が、ハズレ…と確かにそう口にした。だからだろう、俺への興味をなくしたらしい。スイッチを切り替えるように、浮かべていた笑みを消し、無表情になると、近くにいた兵士に顎で指図をした。


「こいつを適当な客間に案内しろ。明日の朝まで使わせていいから、明日の朝になったら、金を渡して追い出しておけ」

「ハッ!」


俺は、王様のいきなりの変貌に思わず文句を言いたくなったが、すぐに言葉を飲み込んだ。完全武装の兵士がこれだけいるのだ。反抗的な態度を取ったら何をされるかわからない。


「こっちだ」


美人と手に手を取って出ていった大学生2人とは真逆の対応だ。ぶっきらぼうな兵士が、俺に「こっちだ」とだけ言い捨てて歩き出したので、慌ててついていくことにした。


気づいたらここにいて、いきなり王様にハズレと言われて、何が何だか状況も何もわかったもんじゃない。が、王様の言葉から、明日、このまま、追い出されることだけはわかった。


「コンビニで、2週間分もびっちり食料を買い込んで、明日からの北海道旅行に備えていたのになぁ」


本当だったら、俺は、明日からまとめて取った有給を使って、次に出すムック本のために、趣味を兼ねた自主的な北海道取材をするつもりだったのだ。


「勤続10年にして、ようやく念願の、俺が一から十まで企画した『日本地酒マップ』のムック本作成を任されたというのに…」


どう考えても、それどころではないのは明白だ。北海道や地酒や取材どころか、何も知らない世界でなんの保護もなく放り出されたら、明日を生き残れるかすら、怪しいだろう。


「会社帰りに立ち寄ったコンビニが停電かと思ったら、いきなりこんなところにいるんだもんなぁ…何なんだよ…これ?」


もちろん、それに答える声はない。


早足の兵士に付いて、数分も歩くと、粗末な木の扉の前にたどり着く。兵士は乱暴に扉を開けて、中を指した。


「ここがお前の部屋だ。明日の朝、誰かが起こしに来て、外に出る門まで案内する。それまで余計なことはするなよ!」

「はい…」


兵士の強い言葉に、俺は特に何も言えず、素直に中へ入ることにした。逆らっても、何もいいことはないだろうしなぁ。


案内された部屋は、4畳ほどの広さしかない。お情けで置いてあるような、貧弱なベッド、テーブル、椅子。それでもう部屋には、何も置けないほど塞がっていた。


兵士が部屋に唯一あるドアを開けたときよりも、さらに乱暴に閉めると、薄い木の扉が、バコンッと、悲鳴を上げた。扉の悲鳴をバックミュージックに、ベッドに腰掛けると、思わず、はぁ、とため息が漏れる。


「何がなんだかわからない…。わからないが何もわからない土地にいきなり放り出されたら、そりゃあどうにかしないと早晩、詰むよな」


ガシガシと頭を搔くと、またため息が、はぁ、と漏れた。まずは生き残るには持ち物の確認が必要か。背中に背負ったカバンを降ろし、中身を確認する。


「コンビニとかで買ったやつも、一緒にこっちに来たみたいだ。それだけは良かった…買い物が無駄にならなかった…しばらくの食料は確保、出来たな」 


どうも、俺は、頭に浮かんだのであろう考えをぶつぶつと口にしまう癖がある。自覚はあるし、会社でもよく指摘されたが、なかなかに癖というのは直らないものだ。


「さっき、頭の中に浮かんできた酒蔵ブルワリーっていう言葉。うん、ファンタジー作品とかで言う、スキルとかギフトとか魔法とか超能力とか、そんな感じの特殊能力?みたいなもののようだな…。何となく、使い方もわかるし…まずは試してみるか…」


俺は、カバンから、ワインのビンを取り出した、空に向かってそれを差し出す。すると、まるで空中にポケットがあるかのように、ワインとビンを持っていた右手首が消えた。


手先の感覚はあるので、千切れたとかではなく、単に見えないだけだろう。


「なになに…何かいろいろと入れるところ?部屋みたいなものか?それが、いくつかあるんだな?」


そう自覚すると、選択肢が頭に浮かんできた。


「いまワインのビンを入れたのが手提げハンドバッグっていうのか。…ほかには広間ホールがあって、地下室セラーに、冷蔵室コールド…さらには冷凍室アイスメーカー恒温恒湿室ファーメンテーション物置きストック事務室オフィスまであるのか…なるほど酒蔵ブルワリーねぇ」


右手を引くとワインのビンは消えていて、何も持ってない手だけが出てきた。


「これで、中に入れられたのかな?ほかの食料品も試してみようかなぁ…」


次を試そうと、カバンにある、パンに手が伸びたとき、部屋に唯一ある粗末な薄い木の扉をコンコンと叩く音がした。扉の向こうに人の気配があるので、入室許可のためのノックだろう。


「はい、なんでしょう?」

「晩御飯をお持ちしました」


明らかな若い女性の声に、俺はホッとした。先程のような完全武装の兵士に来られたら、何がなくとも緊張するに決まっているからだ。


「ああ、どうぞ」


ガチャリ、と扉を開けたのは、猫のようなツリ目に、妙に自信なさげな表情を浮かべた、の、20歳ほどの…服装から推測するに…メイドだった。


ベリーショートの金髪を、大きめのホワイトプリムに、まるで隠すように収めている。少し丸まっている背筋が、彼女の自信のなさを表していた。


メイドは、扉の向こうで、カートのようなものを押して部屋の前に立っていた。なるほど、先程言っていた通り、俺の晩御飯を持ってきてくれたようだ。


確かに腹も減っていたので丁度いい。


「どうも、こちらに置いてください」

「失礼します…」


部屋に入ってきたメイドは、どことなく、疲れたような、フラフラとした足取りをしていた。そして、メイドがカートの上のトレーを小さなテーブルに置いたとき、俺はあることが目についた。


「あの…」

「へ!?な、なんでしょう!?」

「いや、その腕…大丈夫ですか?」


メイドの腕は、赤く腫れ、痛々しいほどの内出血をしていた。最初は袖に隠れていたのだが、置いて手を伸ばすときに、少しめくれてしまい、目に留まった。


「すみません!お見苦しいものを…」

「いや、そんなことじゃなくって…痛いでしょ…それ…」

「…いえ…その…仕方ないので…それに後で自分で治せますし…」

「うーん。そうは言ってもなぁ…あー、ちょっと待って…」


そう言って、俺は、リュックをあさり始めた。確か、旅の疲れが出たとき用に買っていたはずだ。


「お、あったあった」

「あ、あの?」

「ああ、俺、えーと、君から見て、異世界から召喚されたっぽいんだけどさぁ…これは、俺の世界で使われている痛み止めのお薬」

「お薬…?」

「おう。湿布って言ってね、内出血にも効くはずだよ。痛みが取れるから…ほら腕を出して?」

「???」


メイドの少女は、俺に言われるがままに腕を差し出す。俺は差し出されたメイドの腕の、赤く腫れたところに、湿布薬を貼る。


「ひゃっ!?」

「あはははは、ゴメンね。いきなりだと、冷たいよね。でも、痛みも消えてくでしょ?」

「ホントだ…痛みが和らいでいきます…」


メイドは、不思議そうな顔をして、痛みが和らいだことを理解したようだ。しかし、しばらくすると、漫画のように、大粒の涙をポロポロと零して、泣き出してしまった。


「え?あれっ!?ごめん、もしかして滲みた?」

「いえ…違います…」

「えっと、その、大丈夫??」

「大丈夫です。ただ…こんな…こんな風に誰かに親切にしていただいたのが久しぶりで…嬉しくて…」


メイドは、笑いながらも目からはとめどなく、涙を溢れさせている。俺は、それを見て、ポケットからハンカチを出して差し出した。


「事情はよく、わからないけど、とりあえずこれで涙を拭いて…」

「はうあっ…ありがとうございます!ありがとうございます!」


メイドは、何度も、何度も頭を下げて、俺に感謝を示した。過剰すぎるお礼にどうしたもんか、と俺は思わず、頭を掻いた。


これがこれから、長い長い、本当に長い付き合いになる彼女との、出会いの1頁目なのだが、このときの俺が知る由もない。




-----以下お知らせ-----


初めての方は初めまして。別の拙作からいらした方は、またよろしくお願いいたします。


この作品の更新はゆっくりになります。基本的には週2回。土日更新になる予定です。よろしくお願いいたします。

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