第5話 翼の部屋で

 仕事が終わったら彼の家にすぐに向かう。

 ――早く会いたい。

 こんな風に気持ちがはやってしまって。私はやっぱり課長を好きなんだって思い知る。


 急いで向かう彼の家、訪れるのは何度目? 


 今夜も二人には熱い情事が待っているの?


(早く翼に抱かれたい)


 最近の私はおかしい。

 自分でも色気のことばかり。翼と交わすベッドでのキスや翼の肌の感触やスーツ姿ではない裸の姿がフラッシュバックする。

 考えてしまう。

 熱く触れ合って呼吸と鼓動を感じる。


 ……課長を、翼を満足させられれば婚約者を捨てて私の方に来てくれるんじゃないか。

 淡い期待をいつしかいだいていた。


 デパートで新しい下着をいくつも試着して少し際どいデザインの物や可愛いもの黒の下着や少し透けた感じの物を選んでいく。

 翼が好きそうな組み合わせも新調していった。


 翼に夢中になればなるほどに私はどんどん大胆になっていく。

 翼の手が私を触れる。

 頬、唇、首筋……そっと優しく時に荒々しく触れて抱きしめられる。


 深みにハマっていく。

 

 いつか必ず辛くなるのは分かっていたのに。


 煙草の香りが苦手な私に気を使ってベランダで煙草をくゆらす翼の後ろ姿に胸がぎゅうっと切なくなって結局私はベランダに出た。


 私が後ろから翼の背中を抱くと彼は笑った。


「もう一度したくなったのか?」


 翼は私に抱きつかれたまま動かず、私の腕に左手を添えた。

 煙草を持つ右手は所在なさげに空中に止まっていた。


 ふと白い煙が頼りなげに揺れて立ちのぼっていくのが見えた。


「どんどん貴男を好きになっていく」なんて、言えない。


 伝えたい、でも伝えたらいけない。

 そんなこと知られたら胸の内を見透かされたら捨てられる。

 遊びの女に重い感情は要らないのだから。

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