3-2
――と、言う訳で。
私は今日もパーシバルさんの自宅にお邪魔して「納豆」を食べている所存にございます
「で、お父様からも顔色が良いって褒められたんですの」
「へぇ、良かったなお嬢」
もう慣れた様子で、パーシバルさんが頷く。
私の手元には小皿が一つと、その上に納豆。
コレを削った枝で作った箸を使って、食べている。
――アレから一ヶ月。
ものの見事に、私は納豆作りを安定させるが出来ていた。
正確に言えば、最初に作った一週間後から。だから、20日ぐらいかしら?
ちなみに、作り方は大きく変わった。
地中で保温は、結局は失敗の方が多かったのだ。
あの時の一回目は本当に運が良かったらしい。
アレから他の方法と並行して試していたけど、地中保温での成功例は少なく。
10個中1個成功すればよい所。
粘り気も少ないし、食べるとお腹の心配になる物も多数。
むしろ、後から試した別の方法の方が成功率が高かった。
――木箱に湯たんぽを入れて保温を持続し、発酵させると言う方法である。
何回か湯たんぽを交換しなくてはいけないと言う手間があるけど、此方の方が確実。それに湯たんぽ方法だと私の家、私の部屋でこっそり行えるわけだし。手っ取り早い。あの苦労は嘘の様な結末である。
いや、地中で納豆を作った時も楽しかったのは事実よ。
成功はしているんだから、改良すれば、もっと成功率が上がるはず。
でも今はこうして、湯たんぽで作り上げた納豆を毎日ひとつ食べている。急いでいたからね。
そして何故パーシバルさんのご自宅で食べているかと言えば、コレも簡単。
――お父様のお許しがまだ得られないからだ。
「でも、お父様は許してはくれないと」
「ええ。……いえ、食べる事は許してくれましたわ。でも心臓に悪いから、見えないところで食べなさいだって」
「で、俺の家と」
「ええ。お父様にも承諾は取りましたし。貴方にも承諾は取ったはずでしてよ」
「ああ。だから、俺も何も言わないだろ?お嬢」
パーシバルさんが「やれやれ」と言う様に手を振る。
はい、その通りでございます。
お父様には何とか説得して、納豆は毒ではない。健康食品だと理解してもらって。
食べ続けなくては死んでしまうと宣って、何とか説得成功。
でも絶対自宅で食べるなと盟約を付けられた。
仕方が無いので、パーシバルさんの話をして。彼の家を借りる事にしたのです。
勿論パーシバルさんも承諾済み。
報酬として、パーシバルさんの作った野菜をマリーローズ王国に輸出すると言う形をとって。
なので、今現在パーシバルさんは協力者兼、使用人兼、私の
このご自宅も、結構すんなりと私の工房として貸してくれたのです。
それ以降パーシバルさんは私を「お嬢」と呼ぶようになりました。ヤクザみたいね。
ちなみに、どう見ても彼には私への恋愛対象と言うモノは無い。
最近ガチめに、馬鹿ばかりやる師匠の呆れ果てる
待って欲しい。私は「納豆」作りしかやってない。
というか、その弟子は未だに納豆を食べるの、拒否しているのだけど、助手なら食べなさいよ。
そんな気持ちのまま彼に接していたりする。
「―― 一ついいか」
「はいなんですか、ジョシュアさん」
私たちの会話に入る様にジョシュア様が口を開く。
彼は唯一私の納豆を食べてくれる貴重な存在だ。
私と同じ様に、納豆をかき混ぜながら、私を見つめ、続けて口を開いた。
「君はこの「納豆」を成功させたんだろ?それで終わりじゃないのか?」
私はこの問いに首を振る。
胸に手を当て、
「いいえ、最初は納豆作りだけでしたけど嵌まってしまって、もうこうなったら出来る所迄『発酵食品』を作ってみようと思いまして」
「なるほど……?で、今はその『発酵食品』とやらは何を作っているんだ?」
ただひたすらに納豆をかき混ぜながら、ジョシュア様は続けた。
いいのよ、もっとかき混ぜなさい。
かき混ぜればかき混ぜる程、粘身が増し身体によい効果をもたらすわ。
でも、その口ぶり、発酵についてあまり理解なさってないわね。パーシバルさんと並ばせて教えたのだけど。
やっぱり、目に見えない微生物を理解しろと言うのは難しいのかしら。
まあパーシバルさんと比べれば興味を持ち、こうして問いただしてくれるだけで大違いか。私はニコリと頷いた。
「『酢』です」
「…………『酢』?」
「はい、お酒を発酵させた食品になります」
ジョシュアさんは首を傾げた。
「酒を?――君、言ってなかったか?『酒』とは『こうぼ』を使って発酵させた食品だと」
まあ、ちゃんと覚えてくれるなんて。
パーシバルさんは酵母なんて言葉を中々覚えてくれなかったのに。
「はい。それを更に酢酸発酵させたものです」
「さくさん、はっこう?」
「ええ、お酒を造るのに利用するのは酵母菌です。これ使ってのアルコール発酵させたものをお酒と呼びます」
「ほう」
「ですが、酢酸発酵。此方はまた違う微生物を使っての別の発酵となるのです」
「…………ほう」
「……え、と。その名の通り、酢酸菌と言う菌を利用し、この菌がアルコールと糖類を食べて酢酸を生み出す。これを『酢酸発酵』と言うのですよ」
「…………ほ、う」
少しずつ、顔がしかめ面になって来たわ。
私、其処まで難しい事言っているかしら?
途中でジョシュア様が付いて来れていないのに気が付いて、簡単な説明にしてみたのだけど。
「…………ジョシュア様、発酵について何処までご理解しています?」
「え、あれだ……。びせいぶつがゆうきぶつをぶんかいして――」
「ああ、ごめんなさい。無駄に小難しい教え方でしたね」
やはり説明が難し過ぎたのだろうか。
パーシバルさんもこの説明を求めた時、片言でまるで機械の様に私の発言を発し続けるものね。
もうあれ、簡単にいきましょう。
「微生物君がAをなぐ……噛み砕いて、Bを生み出す。発酵の仕組みとしては、こう覚えておいてください」
「…………ああ」
「今回私が挑戦している酢酸発酵も簡単です。酢酸菌君がアルコールと糖類を殴……嚙み砕いて、酢をいう新しい物質を生み出してくれる。――これで如何でしょうか」
「…………なんとなく、わかった」
いや、本当に分かったのかしら。
やっぱり「微生物君が物質Aを粉々にして、物質Bに作り変える」って言った方が良かったかしら?
でも後ろで呆けているパーシバルさんと比べれば、きっと理解はしてくれただろうと信じる。
もう、取り敢えず。今私が「酢」と言うモノを作ろうとしていることを理解してくれれば良いだけだ。
何故『酢』に拘るかって?
コレも簡単『酢』……つまりビネガーは、古来より伝わり、世界中に親しまれている『発酵食品』だからだ。
納豆は、お父様は理解してくれなかった。
それは仕方が無い、「納豆」は日本から生まれたもので好みが分かれるモノ。
ましてや外国がモデルのゲームの世界よ。受け入れられなくて当然だわ。
だったら、世界中で親しまれているビネガーで勝負をしようと言う事。
――いいえ、違うわね。本心を吐露するわ。
たぶんみんなが疑問に思っている事だとおもう。
なんで、お前なんかが「酢」を作っているのかって。
それは素直に、私も疑問。
けれど、あの本当に、信じられない事なのだけど。
でもどうしても、私は言いたい。いや、問いたい。
――この世界、何故『
◇
いや、私も知った時は固まった。
もう衝撃的過ぎて。だって、酢よ。『酢』
ワインと同じように紀元前5千年紀から存在していたと言われている調味料よ。
いや、むしろ何で無いの?ワインあるのに?ワインあるなら酢あるでしょ。吃驚を通り越したわ。
『
あのね、私。前世の記憶を利用して「俺スゲー」をしたいわけじゃないの。
私の知識なんて素人。興味本位で調べたら面白かったから覚えていた程度だもの。
それも含めて太古の歴史を、まるで自分が生みだしました顔はしたくない。
納豆も私に必要だったからにすぎないのよ?
というか、紀元前5千年紀よ?
六千年以上前の時代、大昔ってレベル超えてるから!
その太古の調味料を私が発明しましたて、恐れ多すぎて無理があるわ!
でも、でもね。流石にね。
流通はするべきだとも思っている。
だって『酢』に関しては、有無の違いで世界の食文化って物は大きく変わるでしょう!
絶対必要な物よ!むしろ、どうやって今までの食文化の歴史を辿って来たの!?
こうなったらパーシバルさんを発案者にして、世に広めよう。
というか、酢作りなんてすっごい楽しそうだし、作っちゃおう!!
お父様なんて二の次よ!!
――と、これが今酢を作っている本当の理由にございます。
言えと言うなら、目の前のお二方に熱弁しても良いわ。
腐った真似食べる変人プラス、転生しました発言する狂人に認定されそうだけど。
あ、そうだった。
こちら、今目の前に居る黒髪黒目のジョシュアと言うイケメンさん。
10日ほど前に知り合って、意外にも私の『発酵』に興味を抱いてくださった方。
はい、2人目の攻略対象者です。
はい、あの隣国の皇子様です。
はい、生前推しだった彼です。
お忍びで、身分隠している彼に出会っちゃいました。
これで、説明は終わりでいいかしら。
特に必要も無いから、さくっと終わらせておきます。
もうね「ジュリアンナ」は自分から暗殺者を育てるしかないと思うのは私だけかしら?
あ、因みに皇子様ジュリアンナに一目ぼれしてるわ。
ゲーム設定だけどね。容姿が理想の人だったらしいわよ。
私今、村では変人扱いされているのだけど。そんな人物でも近づいて来る辺り、ゲーム設定は変わらないのね。
青ざめた顔で納豆を食べて、こうして付き合ってくれるぐらいだから、本気なんでしょう。
はい最後まで説明したし。彼の説明は終わりで良いわね。
じゃあ、酢の話に戻りましょうか。
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