2-2
「どうしてですの、お父様!!」
と、言う事で。
私は、その問題に今、真っ向勝負で対面している。
険しい顔の私。
そんな私を、私より険しい顔で睨む、イケメンオジサマ。
銀髪に、赤い瞳、ぱっと見30代の青年にも見える。若々しい顔立ち。
その顔を見事なまでに顰め切っているのが、こちら。
私、ジュリアンナの堅物お父様。「アルフォンス・フランソウワーズ」である。
このマリーローズ王国の宰相様。
何故か、私の追放と同時に。当たり前の様に仕事を放り出して私に着いて来たお父様です。
私の「納豆」作りを邪魔した張本人でもあります。
「どうしても何もない!!頭でも打ったかジュリア!いいや、次期皇太子妃の任を解かれて可笑しくなったか!」
「頭も打っていませんし、可笑しくなった訳ではありません」
重荷が無くなったので、身体の為に動きたいだけです。
その言葉は、ごくりと飲み込んだ。
お父様は続ける。
「だったら、なんだ!豆を腐らせて食べる……?し、死にたいのか!そんなに思い詰めていたのか!」
「いいえ、お父様。滋養に良い料理を作りたいだけですのよ」
完全、私の発言にドン引きした様子で。私の今やりたいことを突っぱねるのである。
はい見ての通り。問題はこのおじさまです。
何度も言いますが、婚約破棄され剰え追放された娘の後を、当たり前の様に付けてきた国の宰相様です。
おかしいな。ゲームではお父様は国に残る筈なのに。
「いいえ、それよりも。何故お父様がここに居るのですか?」
素直に疑問を口にする。
ああ、口調は気にしないで。これでもジュリアンナだから。
さて、話を戻す。私の問いを聞き。
お父様は、机に肘を付くと頭を抱えて、大きく息を付いた。
「あのな、ジュリア。あの皇子の事だ。頭が痛くなる婚約破棄。お前に咎は一切ないのだろう本当であれば」
「はあ」
もっともで。
「だがな、殿下の股座を蹴りあげて、逃亡したとなれば。普通は酷刑だ。親族共に、な……」
―― もっともで。
一連の出来事は、私から話した。
あの日の夜のうちに。これまでの経緯と、家を出ていく旨を伝え。本来なら一人で出ていくはずだった。
因みに、ゲームで後で知るのだが。「追放」は国王の計らいであったらしい。
ただ、よくよく考えれば、ゲームと状況が変わったら、当たり前か。
でもお父様は国で随一と呼ばれる人望と頭脳の持ち主だ。彼を手放してみろ、愚王決定。
皇子は兎も角、王はそう簡単に、皇子の睾丸を蹴りあげたぐらいで処刑にもならないと思うのだが。
それともアレか。皇子が暗殺者でも送り込んでくるあたりか。
――それは、まずい。黒髪だったらどうしよう。
「ま、万が一を考えたのもあるが。正直言えば、私は皇子に呆れかえって、御暇を頂いただけだ。名目は謹慎処分として、執務は此方で行う」
「……さすが、お父様」
堅物真面目でいらっしゃる。
つまり、命の危険はあるし、皇子が反省するまで国には戻らん。でも仕事は熟すよ――と。
でも、そのせいで私の計画は大いに狂った訳である。
だってお父様の他にはお母様と、弟と妹が一緒に着いて来たのだから。
家族総出の旅行じゃないのよ。追放……いえ、逃亡なのよ。これ。
結果、「納豆」を何やら毒薬と勘違いして、造るのも許さない始末。
お言葉ですが、お父様。迷惑です。
こうしている間も、ジュリアンナ……元言いジュリアは食事も真面に取れないのですよ。
私の視線に気が付いてか、お父様は大きくため息を付いた。
「お前は逃亡者だ。しかしここは隣国。――皇太子妃の任を解かれたなら仕方が無い。これからは好きに生きなさい。いいか、好きに生きなさい!!!」
「生きなさい」二度言った。なに?腐った豆を食べるのって其処までな事なの?
健康食品なのよ!
でも堅物お父様。けっして許してはくれなさそう。
「分かりましたお父様!」
「いや、お前は私似だ。分かっていない」
―― 良く分かっているじゃない。
ええ、ええ。「ジュリアンナ」も私も其処まで簡単に音を上げる娘じゃないわ。
「だったら、チャンスをください。『発酵』と言うモノがなんなのか、証明して見せます!」
「国民が作り上げた、食べ物を腐らせて遊ぶというのか?私はお前には国母として教育を――!」
「私がそんな国民を馬鹿にするような真似をするとでも?遊びじゃありません!良く見ていらして?そもそも、お父様はワインをお飲みでしょう?チーズも食べるでしょう?それは発酵食品なのよ?」
私の言葉に、お父様は理解出来ないと言う様に、小さく首を傾げた。
この世界にだって、実は『発酵』食品は存在する。ワインやビール。それにチーズだ。
さすがに、そこら辺は、この世界でも共通しているらしい。
お父様の事だ、ワインの作り方は存じている筈。
でも『発酵』という言葉にはピンとこないという所かしら。
だから、この言葉の意味を理解していただかないと。
そうなれば簡単に出来るのは納豆なのだが。
でも、海外では納豆毛嫌いしているところは、まだあるみたいだし。
子供でも食べられない子は沢山いる。
少なくとも、この逃亡先。この家では作る事は困難そうだ。
「どうぞ、チャンスをください。お父様!」
「……」
それでも、私は父に訴えかける。
今まで頑張って来た愛娘の願いよ。叶えて欲しいわ。
お父様は無言であったけど、少しして小さな溜息を付いた。
「――……分かった。其処まで言うのなら、信じてやる。だが、マリア……母上には心配を掛けないように」
「それは、もちろんです!」
此処に来て一週間。問題解決への一歩である。
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