鬼舞スカイライン
西ノ島のツーリングは島後や中ノ島とはちょっと違う。西ノ島の形は複雑なのだけど大雑把にはまず北側が国賀海岸になる。ここは昨日遊覧船で巡ったところだけど、見る分には景色は良いけど険しい海岸になっている。
人が住んでいるのは南側の湾に沿ったところだけど、ツーリングスポットはやはり国賀海岸になるのよね。そう昨日海から見上げた景色を陸から見下ろす事になる。とは言うものの、国賀海岸沿いのシーサイドロードがあるわけじゃない。
だからツーリングスポットに行くには、島の南側からアプローチする必要が出てくる。もう少し言えば島の北側は高くはないけど山岳地帯になっていて、そこの稜線沿いに道路はあるけど、これがぶつ切れになってるとすれば良いのかな。
「国賀海岸も舟引運河の東側には道があらへん」
舟引運河はちょうど島を二分するような位置になるのだけど、遊覧船もツーリングコースもその西側に広がっているらしい。
「あのなユッキーもちょっとぐらい地図を頭に入れてくれよな」
ついて行けば良いからイイじゃない。
「迷うたら困るやんか」
それは慣れてるからだいじょうぶ。道に迷うなんてツーリングの日常じゃない。
「日常やあらへん。たまに迷うだけや」
たまに迷わないの間違いじゃない?
「うるさいわ」
今日も楽しいツーリングになりそうだ。気合を八時半に出発。まず昨日来た道を戻り舟引運河を渡ってすぐに右折。右折は良いけど、ホントになにも道案内がないな。しばらく舟引運河と並走するけど、すぐに山の中に。この山の向こうに国賀海岸が広がってるんだよな。
道は隠岐標準サイズより狭いし、木が生い茂ってて見通し悪いし、落ち葉も多いじゃないの。ちゃんとした道案内がいないと行き止まりにならないか不安になりそうな道だよ。ぶつぶつ言ってると視界が開けてきて、
「イザナギ浦や」
ほぉ、絶景とまでいかないけど、こりゃなかなかの景色だ。この道にはとくに名前がないみたいだから、イザナギ浦ドライブウェイと名付けてあげよう。
「ドライブウェイは大層やからイザナギ浦パノラマラインはどうや」
パノラマはどうかと思うけどラインの方が良いかもね。イザナギ浦から離れると、こんなところに家じゃないよな。
「倉庫みたいやけど、牛小屋かもしれん」
牧草地は見えないけど、道路に転々と落ちているのは、
「牛のウンコみたいやんか」
そうとしか思えないな。やがてT字路だけど右っぽいよな。
「こっち見てみい、珍しく道路案内があるで」
なになにこっちが摩天崖で、さっきのがイザナギ浜になってるな。海水浴でも出来るかな。摩天崖へ進む道は良いじゃない。稜線上で左右に視界が広がってまさしくスカイラインだ。
「海も見えて来たな」
青い空、青い海、緑の草原のコントラストが素晴らしい。高原ロードとして良いのじゃない。
「ウンコが多いけど」
たしかに。出来るだけ踏んづけないようにしてるけど、これだけ数が多いと避けきれないな。えっ、あれって馬じゃない。隠岐の野生馬だとか、
「隠岐にも隠岐馬はおったけど戦前に絶滅させられとる」
軍馬として不向きだから牡馬をすべて去勢したってマジなの。今なら動物虐待だけど、時代が時代か。じゃあ、あの馬は、
「調べたけどようわからん。馬産地ではあったから、外国馬が導入されてんやろうけど」
コトリの見るところサイズ的にクォーターホースじゃないかと。でもさぁ、隠岐では牛は食べるけど馬は食べないよね。
「聞いたことないもんな。それに牛もやけど耕運機にも使わへんから・・・」
おそらく牛は食用で飼われてるけど、馬は生き残ってしまい、勝手に生きてるんじゃないかって。つまりは野生に戻ってるとか。
「エサやってまで飼う理由があらへんやん」
また道路案内がない分かれ道だけど右に行くのか。広場みたいなところで行き止まりになってるけど。
「摩天崖や」
海から見上げても迫力あったけど、陸から見下ろしても迫力あるよこれ。そこからさっきの分かれ道まで引き返して、また道路案内の無いT字路、海の方に向かうはずだから右だ。行き当たりにはトイレまで設置されてる駐車場があって遊歩道を歩くと、
「あれがローソク岩で、あっちに見えるのが通天橋やな」
このまま国賀海岸を西に走りたいところだけど、道がないから島の南側に戻る事になる。戻ったついでに寄ったのが由良比女神社。
「これも実は隠岐一之宮やねん」
なにしろ古い話だけど、続日本紀には島後の水若酢神社、中ノ島の宇受賀命神社とこの由良比女神社が官社になったと記されているそう。
「一之宮は国司が赴任した時に一番最初にお参りする神社やんか。国府は島後にあるから水若酢神社が一之宮のはずやけど、神社の格で譲らんかったんちゃうか」
ちなみに隠岐には二之宮がないそうだけど、これも序列を付けるともめるからかな、
「実質の一之宮は総社の玉若酢神社でお茶を濁しとったんちゃうか」
この神社の前に広がるのがイカ寄せの浜。ここに数万匹のイカが押し寄せて手づかみでいくらでも獲れたそう。
「昭和二十年ぐらいまでイカは押し寄せて来とったそうや」
由良比女神社から間もなく珍しく道路案内があるけど、
「赤尾展望台の方に行くで」
らじゃ、と言いたいけど、またもや狭いよこれ。それに結構なワインディングじゃない。それなりに登ったところで、
「下見てみい」
ひょぇぇぇ、登って来た道が見えるじゃない。あんなうねるような道を登って来たんだ。こういうワインディングはたくさんあるけど、それが一望できるところは多くないのよね。この辺で登り切っての稜線ルートになるみたいでやがてT字路。これも右に曲がって、
「赤尾スカイラインや」
この道は凄い。景色も良いのだけど、なんと、なんとだよセンターラインがあるのよ。ここも行き止まりに駐車場とトイレがあって、その先に遊歩道がある。
「この辺で遊覧船は引き返してるわ」
赤尾展望台から引き返し、鬼舞スカイライン。スカイラインの名の通り稜線上を走るようなコースで展望は悪くなけど道幅が隠岐標準サイズ。つまりは一車線半から一車線のセンターラインの無い狭い道。観光道路には程遠いのよね。
「バイクやったらまだしも、クルマにはちょっとシンドイやろうな」
随所にすれ違い用のスペースがあるぐらいだもの。それにここも牛のウンコロード。クルマでも踏みたくないだろうけど、バイクならなおさらなのよね。
「ウンコですべって転んで、ウンコに突っ込んで、ウンコまみれになるのは嫌やもんな」
バイクは転んだだけで大惨事になるのだけど、そこにウンコが加わると目も当てられないよ。それにしても空いてるな。今日は平日だからなおさらかもしれないけど、空いているというより誰も走ってないのよ。
「地元の人は景色なんか見に来んやろ」
わざわざクルマにウンコなんか踏ませたくないだろうしね。それでもウンコが多い代わりに、これだけ牛や馬との距離が近いツーリングコースは日本でもここだけかもしれない。
「そんだけ交通量が少ない事の裏返しや」
四国カルストも状況は少し似てるけど、あそこはシーズンになれば、渋滞を起こすほどの観光客が押し寄せるから柵でバッチリ囲んであったものね。この道も柵で囲われるようになれば観光収入も増えたことになるんだろうな。
「皮肉やけどそうやな」
鬼舞スカイラインも行き止まりが展望所になってるスタイル。ここもトイレが整備されてるのに感心するけど、赤尾展望台と同様になんにもないのよね。本州でこれだけのスカイラインがあれば、この辺にレストハウスとかお土産さんが建ち並ぶのだろうにな。
「ウンコに気をつけなあかんな」
どうも駐車場周囲は牛や馬が入って来ないようにしてるみたいだけど、ここで眺望を本当に堪能したいならここから歩いて丘の上に見える展望台に行く必要があるで良いみたいだ。だけど駐車場がある展望所から丘の上の展望台は牛さんのトイレ地帯にもなってるから、
「ウンコのためやのうて、草を食べに来るやろうけど」
結果的には同じでウンコ注意の道。タイヤで踏むのも嫌だけど、ブーツで踏むのはもっと嫌だもの。履き替えのブーツなんか持って来ていないから、
「下手したら神戸までウンコとお付き合せんとあかん」
ウンコ洗いのための御手洗は見当たらないものね。そんなことを話しながらバイクを停めていたんだけど、
「アトラクションがあるみたいや」
ありゃ、メンドクサイな。ここでやるのか。
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