第8篇 愛憎

飴色の空がゆっくり溶けだしていた。

君は空を見上げ、「もう行かなくちゃ」と呟く。

黒くて長い髪に、今までの僕らが写っていた。


目から滑る心を拭いながら、君を睨んだ。

「君なんか、大嫌いだ」

君は嬉しそうに笑った。瞳が業火の色を放っていた。

「わたしも」

耳が腐るほど聞いた声が、満たされないまま水のように体に馴染む。


顔を照らす、目を潰そうと必死な夕日。

君を地面に縛りつけようと、必死な影。

どれも無意味で、君の体は駆け出した。

心臓が跳ねて、君についていこうと暴れる。

もう耐えられないと、一番最初に叫んだくせに。


君の背中が太陽に飲まれていく。

美しい思い出さえ、雲に流され消えていく。

何を嘆けばいいのかわからないまま、がくりと膝をついた。


君のことを愛していた。いや、そんな言葉じゃ表せないほど、体中の細胞が君の言動に一喜一憂して、そのすべてが君を求めていた。


だけど


植え付けられた芽は必ず花開く。

どんな愛も根底にあるフィルターは剥げやしない。


なにもかも消え去った世界で、もう一度君と出会いたい。

君を嫌いになるより先に。

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