第5話 ドラゴンの動画デビュー

「よし、じゃあ撮影をしてみるか」


 時刻は夕方。

 寂しげな光が窓から差し込んでいる。


 丈二の隣にはふわふわと、丸いカメラが浮いている。

 すでに設定は終わって、いつでも撮影できる状態だ。


「ぐる!」


 おはぎは、自信満々にカメラを見ている。

 うすうす気づいていたことだが、おはぎには人の言葉が分かっているのだろう。


 さぁ撮影をしようと意気込んだ。

 しかし、ふと気づいてしまった。


「……何を撮影すればいいんだ?」


 なにを撮ったら見てもらえるのだろうか。

 やはり面白いもの?

 だけど、面白いものってどうやって撮影するんだ?


 ぐるぐると考えるほど、思考は深みにはまっていく。

 なにを撮影したらいいのか分からない。


 ぐぅー。

 おはぎのお腹が鳴いた。

 もう夕方だ、お腹が空いたのか。


「とりあえず、ご飯食べてるところでも撮るか」


 考えていても仕方がない。

 なにかしら上げてみればいいだろうと、丈二は思いなおす。


「ぐるぅ♪」


 おはぎも嬉しそうに鳴いた。


 丈二はカメラを操作して、撮影を始める。

 カメラは勝手におはぎを追いかけている。

 これで大丈夫なはずだ。


 おはぎの食事に関してだが、とりあえず丈二と同じものを食べることにした。

 獣医に電話して聞いたところ、


『確かなことは言えませんが、おそらく人間が食べるものなら大丈夫なはずですよ。簡単に殺せる方法がなくて困ってるくらい、ドラゴンは頑丈な生き物ですから』


 と言うことだった。

 ドッグフードなども試しに与えてみたのだが、あまり気に入らないようだ。


「よし、ちょっと待ってろよ」


 丈二は自炊を初めることにした。

 あまり料理をしたことはないので、とりあえず簡単なものから。


 用意したのは、厚切りの豚肉、それと市販のソースだ。

 豚肉を焼いて、ソースをからめるだけ。

 ポークステーキ。

 とても簡単だ。


 あとは千切りにされたキャベツと一緒に盛り付けるだけ。


 これを料理と言っていいのか分からないが。

 とりあえず食べられるものはできた。


「よし、じゃあ食べような」

「ぐるぅ♪」





 以下は投稿された動画と、それについていたチャットの反応だ。


 カメラにドラゴンが映った。

 ドラゴンは不思議そうにカメラを見つめている。


『カワイイ!!』『めっちゃ、つぶらな瞳やん』『え、これCG?』『ガチっぽいぞ?』『SNSに実際に会った人の画像上がってるぞ』


「おはぎ、カメラが気になるのか?」


 優しそうな男性の声が聞こえる。

 おはぎの頭がなでられた。

 おはぎは気持ちよさそうに目を細める。


『おはぎちゃんって言うのか』『ドラゴンに付ける名前じゃないだろwww』『デカくなってもおはぎって呼ぶのかなwww』『投稿主も優しそうな人やな』


「待ってろよ、今からご飯作るからな」


 おはぎはパタパタと羽を動かす。

 ふわりと浮かび上がる。

 それを追うようにカメラも動いた。


 キッチンには調理器具と、豚肉や市販のソースが並べられている。


『え、人間と同じもの食べさせるの?』『犬チョコ案件?』『ドラゴンがそんな簡単に死ぬわけないやろ』『むしろドラゴンが死ぬ毒が分かったら、それこそ功績だわ』

『アイツら何喰っても平気だぞ。探索者が持ち込んだ食料を、まるごと食われた報告なんていくらでもある』


 一瞬、コメント欄が焦げ付いたが、すぐに鎮静化した。


『手洗った?』『まな板洗った?』『豚肉洗った?』『洗った厨洗った?』


 くだらないコメントで焦げ付いたコメントは洗い流されていった。


 おはぎはパタパタと飛び回りながら、料理のようすを見つめている。


『邪魔しないなんて、ドラゴンって頭良いんだな』『個体にもよるけど人間と同じくらいの知能を持ってるらしいぞ』『料理の邪魔してくるウチの子供より頭いいわ』


「よし、できたぞ」


 男性はテーブルの上に、千切りキャベツと盛り付けられたポークステーキを置く。

 その前に、おはぎも座った。


「いただきます」

「ぐるるぅる」


 おはぎは『いただきます』を真似するように鳴いた。


「スゴイな! 真似したのか?」

「ぐるぅ♪」

「偉いぞー」


 男性がおはぎの頭をなでる。


『スゲー!!』『おはぎちゃんには、しつけ要らないなwww』『このとき人類は気づいていなかった、ドラゴンたちが知能を付けて世界を征服することを』『竜の惑星やめろwww』


「さ、食べような」

「ぐる!」


 おはぎはポークステーキを静かに食べ始める。

 ソースが飛び散らないように、気をつけているようだ。

 しっかりと、キャベツも食べている。


『野菜食べてて偉い!』『俺のほうが野菜食える』『張り合うなwww』『お前らも野菜食えよ?』


 おはぎは食べ終わると、ぺろりと口の周りをなめた。


『ペロかわ』『おはぎちゃんは美味そうに食うな』『ポークステーキ食べたくなってきた』『これ、ソースの案件では?』


「お、食べ終わったのか。おいしかったか?」

「ぐる!」


 おはぎは勢いよく返事をした。


「じゃあ、撮影はここまでかな。さよならー」


 男性の手がカメラに映る。

 バイバイと手を振った。


「ぐるるー」


 おはぎは手招きするように、手をちょいちょいと動かした


『かわいいーーー!!』『なんだ最後の!』『あざとすぎだろ!?』『ママー、俺もドラゴン飼いたい』『ハムスターで我慢しなさい!』『お前、ハムスターなめただろ。してやるから覚えておけよ』『ハムスターさん激おこ定期』


 動画終了。

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