第020話 小惑星の採掘手伝い

「あれが今回の目的地の小惑星だ」

「小・惑・星?」


 宇宙船に揺られること10分、俺たちは目的地のすぐ近くまで辿り着いた。ワープエンジン凄い。


 ただ、小惑星という言葉を聞いて想像していたのとは全然違った。船の百倍くらいの大きさがある。


 それなりの大きさがないと鉱物を採掘するなんてできないか……。


「これでも小惑星の中じゃそれほど大きい方じゃないがな」

「マジか……」


 ゲンゾの話を聞いて俺の中の小惑星のイメージが完全に崩れ去った。


「そういえば、今回俺は何をすればいいんだ?」


 一緒に受けに行ったこともあり、依頼の詳細は記載がなかった。

 実際何をすればいいのか全く聞いていない。


「そうだな。俺たちが作業している傍で採掘機器のメンテナンスや修理と汚れの除去、俺たちが掘った石や鉱石の運搬だな」

「なるほどな。了解」


 程なくして船はその小惑星に着陸した。


「これを着てついてきてくれ」

「分かった」


 外に行く前にツルツルとした服を渡された。全身タイツのように隙間の無い造りになっていて顔の部分は透明なフルフェイスのヘルメットのような造りになっている。


『サイズは問題なさそうだな』

『ああ』

『こっちだ』


 お互いに服を着た後、船のカーゴがある方に進んでいく。服を着た後は直接話すのではなく、服に内蔵された通信装置越しに話をするらしい。


 宇宙じゃ会話できないもんな。


『あれは……」

『小惑星の移動に使う乗り物マイニングマインだ』


 カーゴに入ると、以前はなかった乗り物があった。前にはドリルが付いていて、キャタピラのついたキャンピングカーみたいな形をしている。


『これで鉱石があるポイントの近くまで穴を掘って、近くなったら俺たちの手で作業をする。それと、後ろに採掘道具や修理やメンテナンスに使える道具なんかが入っている。作業をする時は、そこを自由に使ってくれていい』

『へぇ~」


 地球では見たことのない乗り物にワクワクしてしてしまう。


『それじゃあ、助手席に乗り込んでくれ』

『了解」


 ゲンゾに促されてマイニングマインに乗り、俺たちはカーゴのハッチから船の外に出た。小惑星の上から見える恒星メディチや他の惑星。その光景は幻想的で思わず魅入ってしまった。


 月から地球を見た人たちはこんな気持ちだったのかな。


 俺は少し地球の家族の事を思い出して、少しセンチメンタルな気分になった。


 小惑星には重力はほとんどない。その上を車みたいに走れるこのマイニングマイン。どんな技術が使われているのか気になる。


 走ること、数分。ちょうど小惑星の中心近くにやってきた。


『ここが俺たちが目を付けた採掘ポイントだ。時間が勿体ないから掘り始めるぞ』


 ゲンゾは運転席のパネルを操作する。


 ――キュイイイイイイイインッ


 すると、車内に振動が響いてきた。車体が地面のように傾いて、そのまま前に進んでいく。


 ――ガガガガガガガガガガガッ


 ドリルによって地面が削れていく。

 やっぱりドリルはロマンだよな。


 徐々に地面に穴が開いていく。なんだかモグラのような気分になる。


『そろそろいいか。この辺からは手分けして掘るぞ」

『『了解』』


 採掘ポイントに到達すると、ゲンゾの指示に従ってマイニングマインを降りた。


 三人は掘削機のような道具をマイニングマインの屋形から取り出す。その掘削機はパイルバンカーみたいな見た目をしていた。


 なにそれ、めっちゃカッコいいんだけど。


 ドリルもロマンだけど、パイルバンカーもロマン武器のひとつ。人生で一度は使ってみたいよな。


 三人はマイニングマインの車体の前に行って、岩壁を掘り進めていく。俺は暫くその様子を眺めていた。


『新しいのと交換するから後で使えるようにメンテしておいてくれ』

『分かった』


 芯の部分がダメになったらしく、三人とも俺のところに掘削機を持ってきて、別の掘削機に持ち替える。


「リペア、クリーンッ」


 俺はマイニングマインの後ろの部屋で魔法を使用して掘削機を直した。多分使い始めた時よりも新品の状態に近いと思う。


 それから数時間、何度もその作業を繰り返した。


『うーむ』

『どうしたんだ?』


 ゲンゾたちが戻ってきて、腕を組んで唸っている。


『予想ではこの辺りに鉱石が埋まっていると思っていたんだが、見つからなくてな。もしかしたら予想が外れたのかもしれん』

『なるほどな』


 鉱石は機械では探せないものらしくて、ゲンゾは長年の経験と勘によってこの星に目星をつけた。しかし、空ぶってしまったようだ。


 あっ……そうだ。ちょっと試してみるか。


「マテリアルサーチ」


 これはゲーム内で素材の採取ポイントを探す時に使う魔法だ。もしかしたら、この魔法を使えば、何かが分かるかもしれない。


 俺から発せられた魔力が球状に星全体に広がっていく。


「見つけた」


 俺の予想は当たっていた。この魔法を使ったら、この星のイメージが頭の中に浮かんできて、資源の有無と、その分布が色づけされる。


 そして、俺たちと資源の位置関係も理解できた。


『あっちの方角に掘ってみてくれないか?』

『なんだと?』

『いくらでも直してやるから頼むよ』

『分かった』


 俺は頭の中のイメージに従って、ゲンゾに掘ってもらうことにした。


 一時間後。


 ――ガガガガガガガガガガガッ、ガンッ


 掘削機で掘り進めていたら何かにぶつかって止まった。


『こりゃあ……』

『おお!! 凄いじゃねぇか!! これはウィルカース鉱石だぞ!!』

『大当たりだな』


 そこから透明な飴色の鉱物が姿を現わした途端、三人の目の色が変わる。

 何の鉱石かは知らないけど、三人の様子を見る限り、良い鉱石なんだろう。


『お前のお陰だな!! よく分かったな?』

『勘だよ、勘』


 バシンバシンと背中を叩くゲンゾに、俺はしたり顔で言った。


『よし、お前ら、掘って掘って掘りまくるぞ!!』

『『『おおー!!』』』


 テンションが上がったゲンゾが手を付き上げる。俺たちもそれに従って掛け声を上げた。


 それから俺は掘削機の修繕と、石クズと鉱石の輸送という作業をひたすら繰り返し続けた。


「これが今回の報酬額だ」

「五万ユラ……だと?」


 コロニーに帰り着いた後に提示された報酬額に俺は言葉を失う。

 一万ユラくらいだと思っていたら、その5倍だった。

 つまり五百万円だ。


「今回は三十万ユラは確実だからな、本当なら一割の予定だったが、お前さんのおかげで鉱石を発見できた。その礼だ。勿論こんなに稼げるのはそう多くないけどな」


 ガハハハッと笑いながら答えるゲンゾ。

 これは素材屋が稼げると言われるわけだ。


「ありがたく貰っておくよ」 

「おう。それじゃあ、またな」


 サインを受け取り、依頼は完了となった。


「よし、戻るか」


 俺は報告のためにマテリアルギルドに立ち寄った。

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